基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

いやあこれはひどいなあ。詐欺みたいな本。橘玲、他の本は面白いだけじゃなく為になるのになぜこんなことに……(たぶん専門外に進出したせいでしょう)。だいたいね、「たったひとつの方法」なんていうのは、詐欺師しか言わないよね。まあ、面白かったからいいのです。特に前半部は面白かった。勝間和代さんを引き合いに出して、今の社会っていうのは能力至上主義によって成り立っているというのですね。

まとめると、人種や年齢、男女の区別で労働者を選ぼうとすると「差別だ」といわれてしまう。差別というのは「自分では選べないことで批判されること」ですからね。人種や年齢や男女で選べなかったら、じゃあどうすれば平等なんだ? 差別じゃないんだ? と考えたら、そこには「能力」しか残らないのです。だからこそ社会は「能力は後天的にいくらでも操作できる」「能力は無限に成長できる」という思想に侵されている。

能力主義派差別のない平等な社会を築くための基本インフラなのだ。

だからこそ勝間和代さんのような、「やればできる」といった思想が受け入れられるのだと議論は続きます。僕は勝間さんの本読んだことないので本当にそんなこと言っているのかわからないのですけど……。ただしそれはおかしい、人は、変わることなんて、できない。だからこそこの世界は残酷なんだ、というのが本書の主張。どういうことかというと、「能力」は「遺伝」によって決まる、人種や性別のようなものだっていうんです。(ここから信頼出来なくなる)

たとえば一卵性双生児として生まれた二人が、まったく生まれてすぐ離れ離れになり、別々の環境で育ったにも関わらず、飼うペットの名前は同じで、仕事も同じ、さらには子供の名前までまったく同じ、といったような事例が紹介されます。他にもIQと血縁にも関係が認められるらしいです。具体的なデータがないのでよくわからないけど。

でもIQテストっていうのは、アレ、かなり信頼性が疑問視されているんですよね。知性なんていう定義自体があいまいな物をどうやって測定するの? って。僕もそれが疑問です。IQと血縁に関連が認められるとして、そのIQのはかり方の正しさはどうやって証明されるのでしょう? そういったことがまったく説明されない。

あとめちゃくちゃ胡散臭いのが、「子供の成長に親は何の関係もない」っていうハリスという心理学者の説をひっぱってきたお話。聾者の両親を持つ子どもは、親からいっさい言葉を教えられないけど、ほかの子供たちと同じように言葉を覚える、子供は子供集団の中で成長する。だから子供の成長に親は何の関係もないみたいなことを言う。いくらなんでもむちゃくちゃだろとおもうんですが……。

この件については(子供の成長に親は関係ない説)もう少し詳しい説明があるのですが、いやあ、とても納得はできません。たしかに子供は子供集団の中でも成長するでしょう。しかし同時に、家庭でも成長する。当たり前の話だと思いますが、どうでしょう。

また、目を疑ったのが、ひとが幸福を感じるのはみんなから認知されたときだけだとか言い出した時で、こればっかりは何を言っているのかわけがわからない。人から認められた時にしか人間は幸福を感じないって言ってるんですか? 本気で? 誰に見せることもなく、誰に褒められることもなく、自分の好きなことをやって、「前よりうまくできた」と、自分で勝手に満足した時の、あの幸福感はそれじゃあいったいなんなんでしょう? 人に褒められ、認められた時の幸福感なんかよりも、僕は自分の中から湧いてきた満足感の方がずっとずっとでかいと思います。

まとめだけ書いておくと、「能力主義の世界だが、能力は遺伝によって決まっているのでここは残酷な世界だ。また金銭的に成功したからといって幸福を得られるわけではない。幸福は金銭の多寡ではなく、評判を得たい人から得りことができたかによって決まる。さらに現在はネットの登場でフリー化が進行し、ロングテールもあるので「好きなことを仕事にすれば金銭を大きくは稼げないかもしれないけど、幸福の条件である評判を好きなことで得ながら生きていくことが出来る。」つまりはそれが「たった一つの方法だ」ということでしょう。

まず全員が好きを仕事にした場合それで生きていこうと思ったら世の中にはベーシックインカムが必要でしょう。フリー化の一番の問題点は、フリーを使う人が増えれば増えるほどそれでお金を得ることがどんどん難しくなっていくことにあると思うからですが。橘玲さんはたしかベーシックインカムには否定的だったのでどうやるのかはよくわからないですけど……。あと僕はこの幸福の定義がまったく理解できない(笑)

(内容の信頼性は置いておけば)読み物としては面白かったです。読者を楽しませ、ノセるテクニックのうまさとか、自己啓発批判とか。まあ「人間遺伝子に支配されていて、変わることが出来ない」っていう文脈の上で「だから自分は変われると教える自己啓発は意味が無い」ってことだから、納得できないんだけど。でもその切り方は痛快。豊富な事例は為になるし、あと評価経済などの部分には、頷くところが多いです。しかし「甘いのでは」と思ってしまう。そういう本でした。

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法