基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

内部被曝の真実

一冊の本としての完成度は低いが今はこれでいい。
東京大学アイソトープ総合センター長(放射線除染などに数十年関わっている専門家)の児玉龍彦氏が7/27日衆議院厚生労働委員会での発言・質疑応答が元となっている一冊。ほとんどそのまま文章化しているため文章としての完成度は低いし、同じ話は何度も出てくる。が、今最も働かなければいけない時期である専門家の方たちに、しっかりと構成しまとめあげた本を書いている暇はない。

本にまとめることによって今後続く人たちには大きな助けになるがそれはこの自体が一段落してからでいいのである。

さて、ほとんど何も知らない状態で読み始めたので、おおなるほどと思うことばかりだった。たとえば最も読んで驚いたのは「内部被曝」というのが何ミリシーベルトというかたちで言われているが、これには意味がない。なぜならヨウ素131は甲状腺に集まる。トロトラストは肝臓に集まる。セシウムは膀胱に集まる、とそれぞれ集まり害を及ぼす箇所がちがうからだ。

だから放射性物質量をはかるとしても全身をスキャンしても意味が無い。集積点をはかることによって甲状腺がんの危険性があるのか、肝臓がんや白血病につながるのかということが初めてわかる。また疫学的に「原発」と「ガン」の関係を図る為には20年必要だ、という話が衝撃的。

これは統計学的に有意なことを確認するためにはその前よりも現在の方がガン発症率が高くなっていることを求めるのが難しいことにある。ようするに事故前のデータがないと、今増えているのかどうかわからなく、増えているのがわかるのが、20年たってピークが消えた、因果関係がある、という事実なのだ。

また単純に被曝からがん発症まで20〜30年、肝臓害の場合かかるということもある。放射線はDNAの切断を引き起こす。子供や妊婦が危ないと言われるのは、成長するために活発的にDNAは分裂しており、その時DNAは一番切れやすい状態だからだ。遺伝子がひとつ変質しただけではがんにならないが、これが10年ー30年の時をかけて癌化していく、ということらしい。

放射線も同心円状に広がっていくのだと考えていたのだがそれも間違いだとわかった。たとえば30キロ圏内の子供たちはスクールバスで移動し区域外の学校に通っているが、むしろ移動した先の方が放射線量が高い状況が今もある。これは海側だと線量が低いなどの理由があるようだ。

最後に著者の主張をまとめると以下の四点になる。
1.食品、土壌、水を「流れ作業的に」測定していく。
2.現状にあった新しい法律の制定。
3.汚染土壌を除染するために、民間の技術を結集させる。
4.何十兆円という莫大な負担を背負い除染する準備を始めよ。

4がとても実現可能とは思えないが(検証する方法もわからないが)何らかの手を打たないといけないのは事実だろう。間近で放射能を扱ってきている人の生の言葉だけあり危機感に溢れている。一方で質疑応答の際に「ある程度の放射線は健康にいい」という説があるが本当か? なんていうアホな質問をする議員がいることに驚いた。

この一冊で判断するわけにはいかないが、危機意識を持つために良い一冊。

内部被曝の真実 (幻冬舎新書)

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