基本読書

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中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

うーんなるほど……。内容以外のところで鼻につく部分が多かったけど(まったく面白くない軽いノリとか、「同じ大学の○○氏に聞いたところ裏付けがとれたから正しいと思っていいだろう」というような誰だかさっぱりわからない他者を使った自説の権威付けとか。というかだいたい「これが主流です」みたいな言い方が多いけどほんとかよって感じ。)内容としてはなかなかおもしろい。

ここでいう中国化とは別に日本が中国の属国になるとかいう意味ではなく、日本社会が中国の社会に似てくることを指しています。

まず本書で前提として語られるのは、一般的に「近代」と呼ばれるものはヨーロッパだと思われていますが、実は「1000年前の宋朝の中国」から始まったのだといいます。これがどういうことかというと、宋朝時代の政治システムが現代とほとんど同じだからです。要するに我々の政治システムは1000年前からすでに停滞し続けているといえるでしょう。

宋朝時代の何がそんなに画期的だったかの説明として、身分制度を完全に廃止し、経済や社会を徹底的に自由化し政治の秩序は一極支配によって維持したのだと理由をあげています。まず貴族による世襲政治は科挙(官僚採用試験制度)を採用することによって廃止され、数年後とに官僚の任地を変える郡県制によって地元に基盤を築くことを防止します。

同時に貨幣を作って市民に行き渡らせ、これまで農作物をそのまま収めていたのを市場で販売したのちに国にお金を納めるようにしました。貨幣は腐らないし保存ができるのでよそへ移ることへできるようにもなる。貨幣市場が立ち上がったことで物流は盛んになり、もっと稼げる場所へいって稼ぐことも自由になります。

経済の自由化はこうして行われましたが政治の自由は何一つありません(現代の中国と同じ)。じゃあ現代の政治システムとは全然違うじゃん、と思うわけですけど本書では「アメリカの意向に逆らえない諸国は1000年前の政府に逆らえない中国と同じだ」と語ります。ふーむ……。

しかも経済は自由化されたといってもそれは機会の自由化であって結果の自由化じゃないのでもう超格差社会になるわけです。努力する人や運が良い人は上にいけるけど行けない人も大勢いる。その為に中国人が開発したのが親族間の繋がりを大切にすることで、「大勢親族がいれば誰か一人ぐらい成功しているからその人に助けてもらおう」という「親族間の助け合いシステム」なのです。

なるほど。で、ようするに本書でいう「中国化する日本」とは、政治システムとしての中国に近づいていっているのだということになります。ということは逆説的に今までの日本は中国化していなかったのです。宋朝時代の前までは中国に学び中国化していたとも言えるのですが、中国があっという間に制度を変えていくのについていくことができなかった。

これは偶然の要素というよりかは、科挙を行うための「そもそも受験者の学力を上げるための参考書などの印刷物をすれる程紙がなかった」らしいですね。レベルの高い人間が切磋琢磨するから意味があるので、すげー馬鹿と馬鹿が争って馬鹿が残っても意味が無いわけです。

こうして不幸か幸運かはわからないですが、中国と日本の歴史は明確に別れていく。本書ではここで別れてのちに江戸時代になっていく日本の制度を「江戸化」として表しています。この「江戸化」というキイワードは意味が広くとられていて簡単に定義することが難しいんですけど、ようは部族社会のことでしょう。

で、もう言うまでもないことですけど旧来の江戸的な日本制度っていうのはもうぐずぐず、だらだら、手もつけようがないって感じです。終身雇用とかそんなもんどこにあるのかわけわからんし働く場所はないし格差は広がるし年寄りの年金は全然足りないし。中国化は避けられない、となったらもはや学ぶしかない、中国に。

これから先「中国化」という視点で物事を考えると役に立つことが多いだろう。本書は中国に学ぶ上で重要な一冊だ。

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史