- 作者: S‐Fマガジン編集部
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/02/09
- メディア: ムック
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日本篇の結果について
これは僕も出ている2010年代前期総括座談会の大森さんの発言の引用になるけれど、『九八年の「ベストSF」国内篇は、早川書房の本どころか、SFと謳って出た本が一冊もなかったけど、一六年は、『夢見る葦笛』『スペース金融道』『カメリ』みたいなど真ん中のSFが出てるし、《創元SF日本叢書》みたいな専門叢書もある。SFを出す会社が増えて、早川書房が特別な存在じゃなくなったという感じ』*1
というのがそのまんまだろうなあと。一方で単純に早川の本が入ってこなかったのは他所で出ていたものよりつまらないからってわけでもないと思うんだけれどもね(SFコンテスト受賞作の『ユートロニカのこちら側』や芝村裕吏さんの《セルフ・クラフト・ワールド》など個人的に10位以内に入っていても良かったんじゃないかなと思うし)。結果的だけみると、強い作家(上田早夕里さんや宮内悠介さん、円城塔さんとかとか)の他社からの刊行が続いた年だったとはいえるのかもしれない。
一位の上田早夕里『夢みる葦笛』はクォリティを考えれば納得の一位だが、それにしても長篇が強いランキングで短篇集が一位をとるのはすごい(海外篇一位もエリスン『死の鳥』なので長篇よりも短篇集の方が人気なのかと錯覚してしまいそうですらある)。個人的に一位と予測していた『スペース金融道』は二位で、奥泉光さんの『ビビビ・ビ・バップ』は三位ときた。これは読んでいなかったのでいま慌てて読んでいるのだけれども、たいへんおもしろいです。
SFを書く新人作家も(ランキング上位には入ってこなかったが)毎年SFコンテストのおかげで供給がある上に、大量にデビューするライトノベル勢に加え、今は小説家になろう、カクヨムなどのWeb媒体も強いことを考えるとやたらと豊富である。横浜駅SFは2017年のランキングでどこまで食い込むのか──などなど、楽しみな感じ。
海外篇の結果について
海外篇でいうと、『死の鳥』の1位を筆頭にティプトリー、ヴァンス、スラデック、とレジェンド級作家の名前が揃っている。2015年から続く、新訳、復刊、新版で作品を蘇らせるハヤカワ文庫補完計画の流れが続いているのもあるが、単純にそれ以外でもやたらと古くからある作品をあらためて訳そうという動きが続いている。
理由はよくわからないけれど、まあ名前のしれた作家の新訳、初訳はそこまで数が出るわけではないけれど安定して売れるのと、新しく掘り出した作家がなかなか売れないせいもあるのかな。実際今年も去年も本邦初紹介の作家は多くいるのに、どうにも人気は伸びない。ま、クォリティ的な問題も大きいけど(そこまでおもしろくないし、そもそも同傾向で日本の方が出来の良い作品が揃っていたりする)。
このまま新人作家の発掘が後手後手にまわっていって新訳、復刊、旧作の初訳ばっかりになっていったらそれはそれで厳しいものがあるよなと思うものの、その辺はまあ大丈夫でしょう(大丈夫だと思いたい)。ま、2016年もアン・レッキーやピーター・トライアスが出てきたので2017年も新旧合わせて楽しみにしたいところだ。なんといっても今年は幻の『ブルー・マーズ』も出るらしいし……。
このSFを読んで欲しい!
毎年楽しみなのだが、今年も楽しかった。
早川からは佐藤大輔の新刊が出ると聞いて、最初原稿を入手する能力持ちの編集者でもいるのかなと思ったら依頼から20年だという。そんだけ経っても書いてくれるというのが凄い。カルロ・ゼンさんの登場予定もすごい(こっちはそもそも依頼したのが偉い!)イーガン『シルトの梯子』、ケン・リュウ第二短篇集も楽しみ。
河出書房からはダグラス・アダムスの代表作のひとつ《ダーク・ジェントリー探偵事務所》シリーズが出るとか。うーん楽しみだな。ソローキンの長篇『テルリア』、アルジェリアの作家によるディストピア長篇など紹介されている作品すべてがおもしろそう。東京創元社からは巨大ロボットプロジェクトSF『眠れる星の巨人』、脳科学SF『アフターパーティ』、『無限の書』あたりは特に気になる。
今年は個人の予定ものせていて、2017年は神林長平先生の連載終了作が2つ本になるらしいのでそれだけで生きていける──がその上SFマガジンで久しぶりに火星を舞台にした新連載を構想中とかでこれまた素晴らしい。
おわりに
インフル直りたてて長い文章を書くだけの体力が回復していないので、まあこんなところで。2016年も面白い作品が大量に出たけれど、2017年はそれを上回りかねないよなあ……と思うのであった。
*1:そういえば実際に座談会のような形で大森さんと喋ってみると、文字起こししてそのまま原稿にできそうな感じで理路整然と語るのでただただ凄いなあと感動しました