基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

人間を殺した最初の人工知能──『血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null?』

人類は細胞を入れ替えることで寿命を飛躍的に延ばしたものの、代わりに子供が生まれなくなった未来を描く森博嗣さんのWシリーズ最新巻。人工細胞を用いて生み出されたウォーカロンと、素の人間の判定方法を生み出したハギリ博士が世界各地をめぐりながらこの世界の様相を描き出してきたシリーズだが、今回彼が訪れるのは「人間を殺した最初の人工知能」と噂されるイマンと呼ばれる軍事用AIの住処である。

古典的なSF小説ではロボット三原則が適用されており人工知能(というかロボット)は人間に危害を与えられないことになっているが、いろんな抜け道でロボットは人間に危害を与えてしまう(から物語になるともいえる)。結局、厳密なルールとして人への無危害を施行することは不可能だと思われるが、はたして人工知能はどのようにして、どのような判断のもと人間を殺したのか(殺したという噂が本当だとして)。そうした問いかけと関連して、蘇生に成功した冷凍遺体が何者かに盗まれる事件も勃発する。これもまた、前巻から引き続き血縁についての物語であるといえるだろう。

人工知能はどのようなケースなら人へと危害を加えるだろうか。また、ほとんどのケースで人工知能がそうした行動に至らないのはなぜなのか、といった丹念な思考はこのシリーズならではのもので、相変わらず素晴らしい内容だ。

どのように終わるのか

終盤には百年シリーズなど他シリーズの読者的にはけっこう衝撃といえる展開も待っているが、そうはいってもこれが百年シリーズの地続き的な未来である以上は(『赤目姫の潮解』を除く)予測された通りの内容というか、「まあ、あるよね」という感じではある。それよりも「そこまできちんと書くんだなあ」という驚きの方が強い。

はたして、ここで投入された要素がもうじき一旦の完結を迎えると思われるこのシリーズにどのような区切りをもたらすのかの方が、興味深いところである。というのも、「こうなったら終わり」という明確な区切りが思いつかない。だいたい物語が終わると言えば主要人物の環境が大きく変わったり、関係性が大きく変化したり、世界自体に大変動起こったり──といった要素が思い浮かぶわけれども、ハギリの場合は環境と関係性は非常に安定しており、世界自体もゆるやかに変転しつつあるような状況で、”どのように終わるのか”、はたまた”終わらないのか”はぱっとはわからない。

「世界の転換点」としては、マガタ・シキの導く共通思考への道のり。あるいは世界の暫定的な支配者が人間からウォーカロン、あるいはその両者の混ざりあったものへとなっていく(もしくは電子空間で活動する勢力)か、人工知能の勢力争いの決着といったあたりだろうか。第二シーズンがはじまると思われるが、それがまた楽しみだ。

意外と、また未来になって人類が肉体を捨てたポスト・ヒューマンが支配する世界が舞台になっていたりして(あるいは、電子空間で活動する勢力らの物語か)。

おわりに──あわせて読みたい

夢がモチーフになって話題として繰り返されること、また生物の時間スケールの問いかけが繰り返されることもあいまって、『赤目姫の潮解』の雰囲気を少し思い出す。常に夢のようで、自由自在に時間の流れが伸び縮みする不思議な作品である。

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