基本読書

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《ウィッチャー》シリーズはゲームだけじゃなく原作小説もおもしろいぞ!

ウィッチャーI エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)

ウィッチャーI エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)

《ウィッチャー》といえばその存在をゲームで知った人も多いだろうが、実はこれには原作がある。ポーランド作家アンドレイ・サプコフスキによって紡がれた、スラヴ神話をはじめとする無数の神話が混交する独特な世界が人気を集めたファンタジィ大作《ウィッチャー》サーガ五部作だ。日本ではゲームが大人気になる前に第一部の「エルフの血脈」が刊行されていたのだが、なんやかやあって続きが刊行されることはなかった──が、ゲームの大ヒットを受けて続刊が刊行されることになったのだ!

それに伴い一巻の「エルフの血脈」も用語などをゲームにならう形で再調整し新版が刊行され、つい先日第三巻である「炎の洗礼」が出たところ。これはさすがに(これからドラマもはじまるし)、最後まで出してくれるでしょうというところで記事を書き始めたところである。なにしろこの作品、ゲームだけじゃなく小説もめちゃくちゃおもしろいのだ! ストーリーとしてはゲームの前日譚となっており、ゲームのネタバレも特にないのでこれからゲームをやろうと思っている人にも安心である。

僕はゲームを楽しんだ後に小説を読んだくちで、「あ、リヴィアのゲラルトはこうやって決定したのか! スゲーー」とか「ダンディリオンぐう有能やんけ!」とか「イエネファーとトリスの言い知れない確執最高!」「ゲラルトさんマジクソ相変わらず女たらし」と(ゲームやってない人には意味不明だが問題ナシ)小説、物語としてだけではなくその後の展開ともろもろあわせながら楽しんでいる。できれば先にゲームをやった人には小説を、先に小説を読んだ人にはゲームをやってほしいなあと思う。

簡単に世界観とプロットの説明など

簡単に世界観の説明をしておくと、物語の舞台となるのはエルフ、ドワーフ、人間、吸血鬼などさまざまな種族が共存する世界。その中でも、人類の多くは四王国からなる北方諸国とニルフガード帝国に分かれて長年の戦争状態にある。白狼と呼ばれる白髪のイカツイ親父であるゲラルトは、霊薬の力を借りて身体を変異させたミュータントであり、神々に呪われし者とかつて忌み嫌われた魔法剣士(ウィッチャー)だ。

物語は、そんなゲラルトがニルフガード帝国に攻め落とされ間一髪のところを逃げ延びたシントラ国の女王の孫娘シリと遭遇する状況からはじまる。その後ゲラルトは、この先シリに対して訪れるだろう過酷な運命に立ち向かうため、彼女にウィッチャーの訓練を施していく。女心のわからない荒くれ者のおっさんだらけのウィッチャーらだけではなく、妖艶な赤い髪を持つ女魔法使いのトリスも教育に加わり過酷ながらも平穏な日々を送っていたが、次第にシリが持つ〈源流〉と呼ばれる力が明らかになっていき、彼女はその血筋も含め諸勢力から狙われることになるのであった──。

一巻では世界観やキャラクタの紹介の比重が重く比較的平穏だが、二巻では世界の命運を左右するほどの力を持つ魔法使い勢力を二分する内紛が発生し、そこに国家間、種族間の争いまでもが加わって、世界全体を巻き込んだ混沌とした状況へ疾走してゆく。第三巻ではとある事情によってシリと離れ離れになったゲラルトが新たな仲間たちを得てシリを求める冒険譚、魔法使い勢力のイエネファー視点、離れた土地で生きるシリの視点で語られ、この世界の様相をさらに深掘りしていくことになる。

魅力的な女性陣

ゲームもそうだが、小説でも女性陣がとても魅力的だ。まず女性陣はほとんどが魔法使いで、めちゃくちゃ強い。隕石みたいな火球を落としたり、洗脳、門を出して転移するなどだいたい何でもできる。それだけの強大な力を持つがゆえに、ウィッチャーと同じく世間からは忌避され、迫害を受けている──が、生き残るためにも独立心は旺盛で、みなそれぞれの覚悟と決断でもって、自分の人生を選択してみせる。

変異体、人工的に作られた存在であるウィッチャーらは、”作り出された”存在であるがゆえに動機を持たないことを宿命としている。だからこそどの勢力にも肩入れしない。戦争が起ころうが、世界が破滅に向かおうが知ったこっちゃないとうそぶき、カネのために怪物を殺し、どの勢力につくかは”カネ次第”だ。『たとえ世界が廃墟になろうと──そうなるとは思えないが──おれは廃墟の中で怪物を殺しつづける。いつか怪物に殺されるまで。』だが、魔法使い──トリス・メリゴールドは自身の過酷な過去を振り返りながら、自身も本来であればどの勢力にも与しない魔法使いとして傍観者としていられたが、それでも尚、状況に介入する理由を語りかける。

「だから、わたしに動機の話をしないで。わたしたちがソドンの丘に立つ前、魔法院はひとこと、こう言った──”これはきみたちの義務だ”と。誰の戦いか? 何を守るのか? 領土? 境界線? 人民と家? 王たちの利権? 魔法使いの影響力と財源? 混沌に対する秩序? そんなの知ったことじゃない! そうしなければならなかったからよ。必要なら、わたしはもういちど丘に立つ。そうしなければ、最初の犠牲が無駄で無意味なものになるからよ」

『世界が崩壊しつつあるわ。何もせず、傍観することもできる。でも、あらがうこともできる』とトリスは語る。ゲラルトさんは基本的にめっぽうカッコイイ男なのだけれどもどこか抜けたところ(ユーモア)もある。原作でも中立がーとかお前らは危険だから俺ひとりでやるー!⇛一気にピンチ とわりとかっこ悪いところも多く、それも合わさって周囲のキャラクタたちがめちゃくちゃカッコよく映えていくのである。

それぞれのキャラクタが最高にイカスのもあるんだけど。僕が大好きなゲラルトさんと恋仲の女魔法使いイエネファーとか、台詞の一つ一つが格好よすぎるんだよね。彼女は女魔法使いのおかげで反映している街を馬に乗って歩く時、自身に霊薬を使って魅力を増し、『わたしは自己紹介をする気もなければ自分が誰か証明するつもりもない。一目で”そうだ”とわからせたいの。』とかサラっと覇者みたいなことをいうし。

ウィッチャーII 屈辱の刻 (ハヤカワ文庫FT)

ウィッチャーII 屈辱の刻 (ハヤカワ文庫FT)

もちろん男性陣も魅力的だ

もちろん男性陣もゲラルトを筆頭として魅力的。三巻の、とある女性に助けられたときのゲラルトさんの台詞『「借りは返す」ゲラルトは静かに言った。「この恩は忘れない。いつか助けが必要なときがくるかもしれない。ささえが。よりかかる肩が。その時は夜に向かって叫べ。必ず助けに行く」』はその後の展開も合わせて涙が出るほどカッコイイし、実際戦闘では鬼神のごとき働きをする。怪物の特徴を仔細に記憶し、敵に対し適切な罠や攻撃手段に一瞬でたどりつくなど、知的な面も素晴らしい。

カッコイイのは戦闘タイプのキャラだけではない。詩人のダンディリオンはゲラルトに付き従い、その行動を語り継いでみせる。ゲラルトとイエネファーの対話の場面を遠くから盗み見て(声は聞こえない)その会話をシリに対して豊かに代弁する二巻の場面など、地味なんだけど“これぞウィッチャーだ!”という感じで凄くいいのだ。

「嘘よ!」シリは足を踏み鳴らした。「ゲラルトはそんなこと何も言ってない! しゃべってもいないんだから。この目で見たわ。ゲラルトは何も言わずイェネファーと並んで立ってるだけで……」
「これこそ詩の役目だ。シリ。人が口にできないことを言葉にするのが」
「くだらない役目ね。あることないことでっちあげてるだけじゃない」
「それもまた詩の役目だ。おい、池のほうから声が聞こえる。急いでのぞいて、どうなってるか見てごらん」

ダンディリオンがさらっと「それもまた詩の役目だ。」と答えるところか、この足を踏み鳴らすシリがまたかわいくてなあ……ってそんな話ばっかしてるとぜんぜん話が終わらないのでキャラクタについてはこんなところで。

混沌であり、芸術であり、科学である

ぜんぜん説明できていないのだけど、キャラクタ以外の世界観の深みもゲームまで含めた本シリーズの魅力のひとつ。たとえばゲラルトは旅の途中で幾体もの怪物を討伐していくが、その攻略には、いかにして討伐対象の怪物が生まれるに至ったのか、なわばりは持っているのか、生態系にはどんな変化が起こったのか、といった知識が重要になってくる。こうした架空生物の習性の作り込みは、日本のファンタジィでいえば、上橋菜穂子作品(とりわけ『獣の奏者』シリーズ)が思い浮かぶところだ。
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中でも、ファンタジィの醍醐味の一つである魔法および魔法使いたちの設定が素晴らしい。魔法使いの多くは下垂体腺の機能不全によって生殖機能を失うなど、その独特かつ科学的設定もさることながら、女魔法使いイェネファーによって語られる"魔法とは何か"の講義は、理屈を超えた魔法の神秘的な側面と、呪文を唱えると想定された結果が返ってくるゲーム/科学的な側面の融合した、引き込まれる内容だ。

「覚えておいて──魔法は混沌であり、芸術であり、科学である。呪いであり、恵みであり、進歩である。それは誰が魔法を使うか、どう使うか、なんのために使うかで違ってくる。そして魔法はいたるところにある。わたしたちのまわりのどこにでも。簡単に触れられる。手を伸ばしさえすればいいの。いい? やってみるわよ」

原作の作中に出てくる超重要アイテムのひとつである〈カモメの塔〉の〈移動門〉を見つけるには第四レベルの魔法が必要で、〈門〉を起動するには師範レベルの能力がさらに求められるとか、ゲーム関係なく原作での設定がもうすでにゲームっぽかったり、架空のカードゲームが出てきたりするので、20年以上前の原作だけどぜんぜん古びていない。もともとファンタジィはその性質上時の劣化を受けにくいけれども。

おわりに

三巻の話がもっとしたかったなー、この巻、新キャラクタたちの魅力が凄いし序盤の台詞の一つ一つが後半で怒涛の回収・変転を遂げたりで地味ながらも構成的に凄く好きな巻なんだけど……とかあるけれども、まあネタバレなしには語りづらいのでこんなところで。いまもっとも続きを楽しみにしているファンタジィシリーズなので(『氷と炎の歌』と同列)、ぜひファンタジィ好きもゲーム好きも読んでみてね!

ウィッチャーIII 炎の洗礼 (ハヤカワ文庫FT)

ウィッチャーIII 炎の洗礼 (ハヤカワ文庫FT)