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驚きを与えられたい一方で、心地よさを望む──『ヒットの設計図――ポケモンGOからトランプ現象まで』

ヒットの設計図――ポケモンGOからトランプ現象まで

ヒットの設計図――ポケモンGOからトランプ現象まで

ヒットの設計図なんてあるわけがないだろうと、書名を見た段階では反射的には思ったわけだが、それはそれとして世の中のヒットのいくらかは確かにもっともらしく説明することができる。たとえば、人気映画の続篇なんかは、大概の場合そこまで大きく外れることはない。ちゃんと(ほとんどの場合は)「ヒット」するのだ。

また、たしかに、ある物がヒットするかどうかは時代、環境、時の流れといったものに左右されるが、それはそれとしてそれを受け取るのは生物学的類似性を持った「人間」なのである。ということは心理学、あるいは生理学的に何を「好む」のか、種としての傾向はあるのか、といったことは科学することができるのは言うまでもない。そうすると、完璧なヒットの設計図はなかったとしても、ある程度は予測、分析、科学することができるだろう。本書はそうした人間の心理学、社会がどのように流行を発生させるかなどの社会学的観点から「ヒット」を解き明かそうとした一冊である。

驚きを与えられたい一方で、心地よさを望む

たとえば、ヒットの法則の一つは、先にも書いた「ヒットした作品の続篇や、過去にブームになった書籍などの映画化」は当たりやすいというものだ。「そんなことは当たり前じゃないか、一度好きになったものなのだから、その類似物が世に出たのならまた行くだろう」と思うかもしれないし、実際に当たり前だけれども、そうであるがゆえに法則なのである。このヒットの法則を、本書では次のように表現している。

消費者のほとんどは、「ネオフィリア(好奇心が強く、新しいものを発見したいと思う)」であると同時に、重度の「ネオフォビア(あまりに新しいものを怖がる)」でもある。優れたヒットメーカーとは、新しいものと既存のもの、あるいは不安と理解を組み合わせて、「意味がわかる瞬間」を作り出す天才たちである。「どこかなじみを覚える驚き」を作り出す人たちと言ってもいい。

人気作品の続篇なんかは、このネオフォビアとネオフィリアの釣り合いのちょうどいいところにいるのだろう。新しいものでありながら、どのようなものが出てくるのかはわかっている。マーベル・シネマティック・ユニバースなんかは、世界観を同じくする別のヒーローを主人公とすることでそれをより広い形で実現しているといえる。

口コミは重要ではない

次に重要なのは、ある作品をとてもおもしろいと思った聴衆が、また別の聴衆に「これおもしろいよ!」と話したくなるような「口コミ」の存在である。ユーザが勝手に熱量を持って周りに広めてくれ、それがどんどん感染していって売上が増えるのならば、作り手側としては待っているだけで大きなリターンを得ることができる。これにも、当たり前だが完全な方程式はない。ただしいくつかの指針は存在している。

たとえば、人から人へと広がっていき、それが社会現象にまで発展することを「バイラル・マーケティング」ということもある。疫学における「バイラル」とは感染者が死ぬ、あるいは治る前に二人以上の人間に感染させることであり、たしかにインターネット上では誰もがSNS上で好きなものについて語り、人から人へと伝わっていくイメージにはよくマッチしているが、現実はそうではない。実際には90%以上のメッセージはまったく広がらず、僅かにシェアされたメッセージも、「バイラル」と呼ばれる広がり方をしたものはほぼなかったという(ヤフーによるツイッター調査)。

 インターネット上では、何もかもがバイラルに広がるように見える。だがおそらく、そういうことがあったとしても、非常にまれである。インターネット上の人気は「最大のブロードキャストの規模によって決まる」と、研究者たちは結論づけている。デジタル世界の巨大ヒットは、1対1がつながる瞬間が100万回存在したのではなく、1対100万の瞬間が何回かあったのだ。

草の根で広がっていく「口コミ」こそがヒットの原因だと信じ込んでしまって、そこに労力をかけてもほとんどの場合無駄だということである。「ヒットの方程式」は存在しないかもしれないが、少なくともこうしたデータ、分析を集めていくことで、やる意味のあることとやる意味のないことの選別ができるようになるだろう。

それ以外の小ネタもおもしろい

と、本書ではこのように大ネタとしては人間の心理学的側面から考察するヒットと、社会的な繋がりから考察するヒットの二つを扱っており、それが具体的にどのように算出されているのか、現実でそれらを再現している商品や映画は何かを細かく語っていくことになる。副題にある「ポケモンGOからトランプ現象まで」の部分だ。

で、紹介されている中に無数のおもしろい小ネタが入っていたので、二つ紹介してみよう。たとえば書評を書いている身として興味深い研究に「ネタバレは話の面白さを壊さない」というものがある。この研究では、800人の学生に名作小説(レイモンド・カーヴァーやアガサ・クリスティ)を3冊読ませた。その中には、途中で筋の展開を教える「ネタバレ」の段が加えられている本と、加えられていない本が混じっていたが、学生たちはネタバレが加えられていたストーリーの方を高く評価したという。

いくら名作揃いとはいえ根本的に作品が別なのでお粗末な検証方法だとは思うが、偉大なストーリーはネタバレ程度でつまらなくならないのだろう。書評家的には「じゃあもっとネタバレしたろ!」と思う気持ちが生まれてきてしまうが、ネタバレされるのが嫌な人は、ネタバレ記事を読んだ後に本を読んでおもしろいと思ったとしても「なぜネタバレしたんだ!」と怒るにきまっているので使えない情報ではある。

もう一つブログ書きとして気になったのは「効果的な見出しとは何か?」という問いかけ。ネットの記事がバズるかバズらないかは記事名が大きいので、バズらせようと思ったら本文よりも圧倒的に重要なのが「見出し」なのだ。これについて、スタンフォード大学のコンピュータ科学者たちが行っていたreddit(英語圏のソーシャルブックマークサイト)の分析によると、redditの最も成功している見出しは

「新しいイメージやストーリーを提示しながら、対象とするコミュニティの言語的規範に合っているもの」ということだった。つまり、よい見出しとは、なじみ感がありながら、かといってありすぎず、心地よい驚きが、対象となる読者の聞き慣れた言葉で表現されていて、世間に受け入れられているテーマに関して自分の理解を進めてくれそうなものだという。

うーん、なるほどね、と思いつつも要求が多すぎて難しい。少なくともこの記事の見出しではまったくその要素を取り入れることができなかった。

おわりに

本書はヒットの要因を分析している本なわけで、これがまるで売れなかったら滑稽だが、ちゃんとヒットしているらしい(だから邦訳まで出ているわけだが)。人の「好み」を分析する箇所も多く、同じく早川書房から出ている『好き嫌い――行動科学最大の謎』の姉妹篇のようでもある。興味のある人は、どちらも買ってみては。

好き嫌い―行動科学最大の謎―

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