- アーティスト: RADWIMPS
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2019/07/19
- メディア: CD
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夜、『天気の子』を友人と観に行く。大変な傑作。当然『君の名は。』と比べられるし、比べるわけだが、どちらが好きと比べられる作品ではない。どちらも大好きだ。各演出の破壊力、洗練のされ方という点では断然『君の名は。』に軍配が上がるのだけれども、『天気の子』は(上映時間も『天気の子』の方が長いと思う)逆にエピソード数もキャラ数も増え、そのどれもが愛おしいという点において大好きな作品だ。
田舎から東京へと家出してきた少年と、天候を操る力を得てしまった少女の運命を描くボーイ・ミーツ・ガールというところに主軸を置いているのだが、少年が東京から出てきた時に東京の中には行き場がなく路上をうろつくうちに、家での最初にたまたま出会った謎の編集プロダクションに拾ってもらい、そこで働く美人なお姉さんとあまりにも胡散臭いおっさんとの生活を立て直す日々が始まる──と、このへんは物語的な立ち上がりの遅さを感じさせる面もあるのだけれども、とても好ましいものだ。
この美人なお姉さん(夏美)の理想のお姉さんの概念体現者感が半端なくて、もしこんな人と一緒にこんな日々がおくれるのであれば、それは人生の中でも最も忘れがたい期間にならざるをえないだろう、とただただ感動に打ち震えるんだよなあ……。就活中なのでスーツもきてくれるし、車を運転している姿も原付きに乗ってる姿も最高なんだよなあ……。で、神性のようなものを帯びている夏美さんなんだけど、物語の最後までその神性が一切崩れることがないのが素晴らしい。カラッとしたポジティブさで、どこまでも少年のために体をはって導いてくれるお姉さん概念なのである。
ストーリー的には、天候を操るような大きな力にはそれ相応の代償が伴い、それに対して少年と、天気の力を得てしまった陽菜(ひな)はどう立ち向かうのか──といった主軸が、家出少年を親元へ連れ戻そうとする警察や、母親が死んでしまい自分と弟だけで暮らしている陽菜に社会保障を受けさせようとする社会規範との対立とシンクロして語られていく。「いや、家に帰れよ」「社会保障ぐらい受けろよ」と思ってしまう面もあるが、彼ら彼女らは「絶対に否!」といって受け入れようとしない。
理由は単に家に帰りたくないからだったり、児童養護施設に入れられてバラバラになることへの恐怖だったりして、それは子供時代の一過性の反発心だ、あるいは知識不足故にただ無意味に怖がっているだけだ、と大人の論理で一蹴するのは簡単だが────でも多くの、生き辛さを抱えている人たちは、多かれ少なかれこの強烈な社会規範への反抗心といったものに共感を覚えるのではないだろうか。
絵的な面でも素晴らしかった。雨が振り続けているのだけれども、水浸しになった東京が美しいし、そこから陽菜の能力によって指す一筋の光の表現が毎度ぞっとするほど美しい。演出のキレという点では『君の名は。』に及ばないんだけれども、全体的なトーン、質感の満足度としてはこちらに軍配があがる。だからこそ、だらだらと、何度でもみたいタイプの映画に仕上がっている。陽菜の弟の凪くんがめちゃくちゃかわいい男の子だったり、陽菜がチキンラーメンやポテチを使って凄く美味しそうな食事を作るシーンだったり、陽菜と凪くんと少年三人でまるでテーマパークのようにラブホに泊まるシーンだったり、一瞬一瞬のかけがえのなさがすごいんだよなあ……。
ラストの収束地点は素晴らしいというほかないが、それはそれとして事前の新海誠監督のちょっとした発言や「セカイを決定的に変えてしまったんだ」なんかの予告編の情報から予測がついてしまうのでそこに関しては伏せてほしかった感がある。とまあ、たいしたことは書いていないけれど、観終えた後ずっと余韻が残っていて他のことが手につかなかったので書いた。
もう一日経った後の追記。その予感は観終えた瞬間からあったが、一日経って実感したのはこれはやはり余韻が凄い映画だということだ。頭の中で反芻するたびにやはりどの場面も凄かったと思うし、いくつもの情景が浮かび上がってくる。何より、『君の名は。』であれだけの名声と力を獲得してその次に出してきたのが、ここまで青臭さをいい年で立場もある人間が全力で肯定できるこの作品だというのが本当に凄い。それも「ただの青臭さ」であるとはいえない作品でもある。ようは、新世代、新しい価値観の絶対的な肯定なのだから。