基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

進化と物理法則のつながりを深堀りする傑作『生命の歴史は繰り返すのか?』やスノーデンが半生を綴る『独白:消せない記録』などを紹介(本の雑誌2020年3月号掲載)

まえがき

本の雑誌2020年3月号に掲載された新刊めったくたガイドの僕が書いたノンフィクションガイドをここに転載します。連載3回目。毎月連載なんで「いやー紹介したい本がいっぱいあって困っちゃうなー」という時もあれば「そんなでもないな……」みたいな月もあるんですがこの月は紹介したい本がいっぱいある時のようだ。

トップバッターの『生命進化の物理法則』も抜群におもしろいし、その次の麻酔科医の仕事について書かれた『意識と感覚のない世界』も初めて知ることが叙情的な筆致で描かれていて再考だった。自動運転車が社会を変える大きな未来像を描き出してみせた『ドライバーレスの衝撃—自動運転車が社会を支配する』もおもしろく、取り扱う方面をバラけさせながら面白い本ばかり取り上げられた月だったと思う。

ここから原稿。

生命の歴史は繰り返すのか?ー進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む

生命の歴史は繰り返すのか?ー進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む

  • 作者:Jonathan B. Losos
  • 発売日: 2019/06/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
一九年はジョナサン・B・ロソス『生命の歴史は繰り返すのか?』など物理法則と生物の進化の繋がりを解き明かす素晴らしいノンフィクションが多数刊行されたが、チャールズ・コケル『生命進化の物理法則』( 藤原多伽夫訳/河出書房新社二五〇〇円)もその流れに連なる一冊で、これも傑作。進化には偶然が強く作用するから、スティーヴン・ジェイ・グールドは『ワンダフル・ライフ』の中で、仮に進化の過程を再現したならば、今とは異なる生物界が現れるだろうと語り、受け入れられた。

だが、この宇宙は物理法則に支配されているから、動く時、泳ぐ時に最適な形は決まっている。生物が生きていくためには、摂取できるエネルギー量を上回る力を逃走や捕食に用いることはできないから、自然と最適な形へと収束し、進化には必然ともいえる方向性が生まれるのではないかという問いかけを、本書では深堀りしていく。

てんとう虫やもぐらが、空を飛んだり地面を掘ったりする都合上なぜああした形をしているのかを解き明かし、次第に「なぜ地球の生物は構成要素に炭素を用いるのか?」「地球外生命体には炭素以外をメインとして構成する生物は想定できるのか?」といった、宇宙生物学の領域までもが射程に入ってくるのだ。地球から何千何万光年離れた場所であっても、物理法則に変わりはない。物理学と進化生物学のあいだに存在するつながりを解明する、エレガントなサイエンスノンフィクションだ。

ヘンリー・ジェイ・プリスビロー『意識と感覚のない世界』(小田嶋由美子訳/みすず書房二八〇〇円)は、医療従事者の中でも実際に手術や治療を担当することはめったになく、比較的光のあたりづらい、麻酔科医の日常について書かれたエッセイである。患者の記憶には残りづらいかもしれないが、その仕事は超重要だ。

手術中に患者のバイタルが不安定になったり、失血による心拍リズムの変動に応じて患者を適切な状態に戻すのは、麻酔科医の役割なのである。麻酔の仕組みについての化学的な紹介や、その歴史についての記述と著者の体験談がいい具合にブレンドされていて、読み終える頃には麻酔科医への強い感謝を覚えているだろう。

ニーアル・ファーガソン『スクエア・アンド・タワー』(柴田裕之訳/東洋経済新報社上下各二五〇〇円)は直訳すると「広場と塔」という不思議な書名だが、これはそれぞれ人間関係におけるネットワーク型と階層型の構造をさしている。本書では、これまであまり顧みられることのなかった、しかし今では支配的であるネットワーク的な人間関係が、歴史に応じてどのように機能してきたのかを解き明かしていく。たとえば、アメリカのキッシンジャーがその最高位というわけではない地位にたいして、なぜあれほどの影響力を持っていたのかを、書簡などのやりとりからある程度客観的に理解できるようになるなど、新しい観点から歴史を捉え直してくれる快作である。サミュエル・I・シュウォルツ『ドライバーレスの衝撃—自動運転車が社会を支配する』(小林啓倫訳/白楊社二五〇〇円)はその存在感を増しつつある自動運転車についての一冊。自動運転なんて自分には関係がないと思うかもしれないが、たとえば、長時間満員電車に乗って通勤している時間が、落ち着いて横になって眠れる時間になったとしたら、多くの人は喜んでそうするのではないか。そうしたら、自分専用車を持つことは今よりも魅力的な選択肢になり、郊外に引っ越そうという動きが起こるだろう──と、自動運転車が社会を激変させる可能性について様々な角度から検討していく。リアルな未来予測に、確かにそうなるかもとうなずくことしかりであった。アメリカ国家安全保障局(NSA)による国際的な監視網について告発し、その名を轟かせたエドワード・スノーデン。『スノーデン 独白:消せない記録』(山形浩生訳/河出書房新社一九〇〇円)は、そんな彼が自身の幼少期から語り始め、なぜ告発に至ったのかを明らかにする自伝である。幼少期には別に興味ないなあ……とあまり気が乗らない状態で読み始めたのだけれど、ゼルダやマリオにドハマリした幼年期、

エヴァや攻殻機動隊に耽溺した青年期とオタク的には共感しかなく、そうした日々から後の告発に至る彼の道徳観や倫理観が育っていって──と、前半はオタク語りとして、後半は(現実の話であるが)一級品のスリラーのように楽しませてもらった。

「奴隷」になった犬、そして猫

「奴隷」になった犬、そして猫

  • 作者:太田匡彦
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本
趣向を変えて紹介したいのは太田匡彦『「奴隷」になった犬、そして猫』(朝日新聞出版一五〇〇円)。ペットショップでの生体販売ビジネスの闇についての本だが、犬や猫を愛する身からすると目をそむけたくなるような現実が語られている。たとえば、現在商業要請によってペット用の犬や猫が大量生産されているが、小売までの流通過程で二万匹以上の犬猫が死んでいる。飼育業者への数値規制がないので、猫四〇〇匹を二人で管理していたり、餌の管理も十分ではなく共食いすらも起きている状況があるのだ。業界側にもそうした状況を変えようと動いている人が多くいるが、一消費者としても何ができるのか、考え直すきっかけになった本である。最後になるがスーザン・オーリアン『炎のなかの図書館』(羽田詩津子訳/早川書房二六〇〇円)は一九八六年にロサンゼルス中央図書館で起きた火災を扱った一冊。一一〇万冊が焼けるか損傷したこの未曾有の大事件で、本を守るために市民が起こした人々の行動や、世界中で焼かれてきた図書館の歴史、図書館の未来の在り方についてなど、幅広く図書館についての思考をめぐらせてゆく。

おわりに

今月の本の雑誌新刊もよろしくね〜

本の雑誌447号2020年9月号

本の雑誌447号2020年9月号

  • 発売日: 2020/08/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)