まえがき
本の雑誌2020年3月号に掲載された新刊めったくたガイドの僕が書いたノンフィクションガイドをここに転載します。連載3回目。毎月連載なんで「いやー紹介したい本がいっぱいあって困っちゃうなー」という時もあれば「そんなでもないな……」みたいな月もあるんですがこの月は紹介したい本がいっぱいある時のようだ。
トップバッターの『生命進化の物理法則』も抜群におもしろいし、その次の麻酔科医の仕事について書かれた『意識と感覚のない世界』も初めて知ることが叙情的な筆致で描かれていて再考だった。自動運転車が社会を変える大きな未来像を描き出してみせた『ドライバーレスの衝撃—自動運転車が社会を支配する』もおもしろく、取り扱う方面をバラけさせながら面白い本ばかり取り上げられた月だったと思う。
ここから原稿。
生命の歴史は繰り返すのか?ー進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む
- 作者:Jonathan B. Losos
- 発売日: 2019/06/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
だが、この宇宙は物理法則に支配されているから、動く時、泳ぐ時に最適な形は決まっている。生物が生きていくためには、摂取できるエネルギー量を上回る力を逃走や捕食に用いることはできないから、自然と最適な形へと収束し、進化には必然ともいえる方向性が生まれるのではないかという問いかけを、本書では深堀りしていく。
てんとう虫やもぐらが、空を飛んだり地面を掘ったりする都合上なぜああした形をしているのかを解き明かし、次第に「なぜ地球の生物は構成要素に炭素を用いるのか?」「地球外生命体には炭素以外をメインとして構成する生物は想定できるのか?」といった、宇宙生物学の領域までもが射程に入ってくるのだ。地球から何千何万光年離れた場所であっても、物理法則に変わりはない。物理学と進化生物学のあいだに存在するつながりを解明する、エレガントなサイエンスノンフィクションだ。
意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか
- 作者:ヘンリー・ジェイ・プリスビロー
- 発売日: 2019/12/16
- メディア: Kindle版
手術中に患者のバイタルが不安定になったり、失血による心拍リズムの変動に応じて患者を適切な状態に戻すのは、麻酔科医の役割なのである。麻酔の仕組みについての化学的な紹介や、その歴史についての記述と著者の体験談がいい具合にブレンドされていて、読み終える頃には麻酔科医への強い感謝を覚えているだろう。
スクエア・アンド・タワー(上)―ネットワークが創り変えた世界
- 作者:ニーアル ファーガソン
- 発売日: 2019/12/06
- メディア: Kindle版
- 作者:サミュエル・I・シュウォルツ
- 発売日: 2019/12/07
- メディア: 単行本
- 作者:エドワード・スノーデン
- 発売日: 2019/12/20
- メディア: Kindle版
エヴァや攻殻機動隊に耽溺した青年期とオタク的には共感しかなく、そうした日々から後の告発に至る彼の道徳観や倫理観が育っていって──と、前半はオタク語りとして、後半は(現実の話であるが)一級品のスリラーのように楽しませてもらった。
- 作者:太田匡彦
- 発売日: 2019/11/20
- メディア: 単行本
- 作者:スーザン・オーリアン
- 発売日: 2019/11/19
- メディア: 単行本