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複雑な人間関係・時代関係がカタルシスへと直結していく、尖りすぎた近年最高峰のSFアドベンチャーゲーム!!──『十三機兵防衛圏』

十三機兵防衛圏 - PS4

十三機兵防衛圏 - PS4

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: アトラス
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
いやはやこれは本当におもしろい、今年最高のゲームだった。『オーディンスフィア』などで知られるヴァニラウェア✗アトラスの新作だが、タイトルからもわかるように本作はいわゆるロボットゲームである。ゲームパートはRTSのタワーディフェンス型の仕組みが採用されていて、こちらも大変におもしろい内容に仕上がっているのだけれども、特筆したいのは、アドベンチャーパートのシナリオに各種演出だ!

物語冒頭、怪獣の侵攻によって街が破壊されつつあり、人々が逃げ惑う中一人の女子高生が太ももをすっとなでる/さらう動作をすることで、STARTの文字が浮かび上がり、街中の歩道橋越しに巨大な人型ロボットが、ばりばりばりという時空の歪みのあとに突如出現するという一連のシークエンスでぞっこん惚れ込んでしまって(街に直立するロボットはなんて格好良いんだろう!!)、その後はじめたらもう止めることができずに二日間で三十五時間ぐらいかけて一気にクリアしてしまった。
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今年はデスストもあったから、本作に対して2019年最高のSFゲーム! と見出しをつけることは難しかったけど、それにまったく別角度から比肩しうる最高のSFゲームだ。この五年単位でも、SF系のシナリオのゲームとしては最高峰ではないか。

十三人の視点から立ち上がってくる物語

というわけでここからは細かくそのおもしろさについて触れていこう。まずはシナリオ/世界観についてなのだけれども、物語の主な舞台となっているのは1945年、1985年、2025年、2065年、2105年である。40年刻みなのは、作中に存在するタイムトラベル装置が移動可能なのが40年単位でしか稼働できないからだ。

作中では最初、2188年で何かがあり、そこから街に対して建設機械のような外観をした怪獣のように見える機械が出現するようになる。2105年、25年、65年、そして1945年はそうした怪獣の襲撃により世界は壊滅的な状態となっていて無事に残っているのは退避してきた/最初からそこで暮らしていた機兵のパイロット適性を持つ13人が存在する、1985年のみである──というのが開始時点での大まかな状況。

本作の特徴はそうした13人一人一人に個別の物語が存在することだ。アドベンチャーパートでは自由に遊びたい人間を選択してシナリオを読み進めることができのだが、そうすることで13人の断片的な視点の集積から一つの物語が立ち上がってくる。たとえば南奈津乃というUFOマニア少女のパートでは、小さな喋るロボットと出会い、彼を完全に宇宙人と勘違いして、彼の言われるがままに各時代をめぐりながら特別な機兵を探し始める。比治山隆俊は1944年に日本軍の兵士として米軍に対抗するため機兵に登場する訓練をうけていたが、転移に巻き込まれ1985年に転移してしまってからは、戦争に負けた歴史を修正するためにも過去へ戻ろうとする。

こてこての80年代ヤンキーであるリーゼントヘアの緒方稔二はとある駅のホームから電車に乗ると怪獣に襲われ、何者かによって再度駅のホームにループさせられるという奇妙な現象に襲われそのループからなんとかして脱出しようと苦闘する──と、それぞれが何らかの漫画やアニメの主人公を張っていてもおかしくないぐらいにキャラ付けと展開する物語が濃い。普通13人の視点で物語が語られていくとなると、半分ぐらいはつまらなかったり数合わせ的な存在がいて萎えるものだが、本作の場合は本当に一人一人の物語の独自性が高く、誰一人として捨てキャラがいないのだ。

これでもかと詰め込まれているSFネタ

シナリオに関しては、SFネタがこれでもかと詰め込まれているのも凄い。タイムトラベルやロボットをはじめとして、並行世界にクローン、記憶の移植技術にループにAIに、ここでは明かせないあれやこれやも投入されて、それでいてそれらが未来表現のフレーバーなどではなく全部シナリオの根幹に関わってくるのが圧倒的に凄い。

そのおかげもあって同じ名前の登場人物が様々な理由から複数存在していたり、同じ見た目に見えていても別の存在であったりといった無茶苦茶なことが起こりまくってただでさえ主要人物が十三人以上いて複雑なシナリオがどんどん錯綜していくんだけど、そこまで複雑であるからこそ十三人の視点それぞれがおもしろいのである!

マジで読んでも読んでも謎が出て、次から次へと解決されていくので読みながら「ここまでのことをやる狂人がいるのか……?」と唖然としたもんね。完全に傑作であるのは前提として、もう二度とこの世に生まれ落ちない系の怪作でもあると思う。

キレッキレの演出

このアドベンチャー・パートのもう一つの特徴はこれが実際には「機兵」に乗り込むまでの物語である、というところにある。構成的にはまどか☆マギカ的で、覚悟を決めて自分の意志で「機兵に乗り込むぞ」と決意したシーンがだいたい全員のシナリオのラストにあてがわれていて、To The Last Battleが表示されて終わるのだ。

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街にそびえたつロボットが最高なわけですよ!
で、このラストシーンの機兵乗り込みシーンがあまりにも格好良すぎるわけですよ!!! 作中の人物らは身体の部位に機兵起動用のナノマシンが埋め込まれていて(額だったり、腹だったり、背中だったり、足首だったりする)そこをてでさっとなでることで機兵がばりばりと空間を歪ませて出現するのだけど、もうね、身体を屈めて格好良いセリフをいいながら足首をサッと撫でて街なかに超巨大な機兵がばばーん!!! と出現するだけでこちとら「うおおおおおおおおおおおおお」とド興奮状態になってるわけですよ!!! とにかく街の中に巨大な人型ロボットが直立している風景が最高だし、廃墟との相性も抜群なわけですよ!! それをみたら「次のシナリオに行くぞおらぁ!!!」みたいなテンションになっているわけですよ!!
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機兵を召喚するシーン。街にそびえたつ巨大な人型ロボットが今世紀最高にクール
そうした「ここから戦いだぁ!」みたいなテンションで各人のシナリオが終わるのだけれども、そういう構成になっているのにも理由がある。というのも、アドベンチャーパートと分かれているバトルパートもまた自由に進めることができるんだけど、このパートは基本的に全部アドベンチャーパート以後、1985年という時代で、怪獣に襲われたこの世界を機兵に乗って救うんだ、と決めた後の物語なんだよね。

バトルパートではあまり会話がないからネタバレを食らうということもなく、読んでいる方としては「この主人公たちはみなどのような理由からこんな関係性になって、こんな絶望的な戦いに挑んでいるんだろう」と疑問がさらに積み重なっていくことになる。これはうまいというか、ロボ物をやるうえでスマートなわけですよ。

ロボットの戦闘を文章で表現してもどうしてもおもしろさの限界があるのでそこは全部ゲームパートに投げ捨てていて、アドベンチャーパートは「なぜこのロボットが生まれたのか」「なぜ彼らはこのロボットで戦わねばならないのか」という動機の部分を描くものとして(シナリオ的な意味でもモード的な意味でも)完全に切り離されていて、おかげで話が読みたいのにまたバトルかよ、とか今はひたすらバトルをしたい気分なのにいつまで話を読まないといけないんだみたいなイライラがない。

おわりに

ちょっと長くなったのでこんなところにしておこう。ゲームパートは飛び抜けておもしろいわけではないが、大量に迫りくる敵を様々な広範囲攻撃とか遠隔攻撃、近接攻撃ユニットで使い分けてばんばん破壊していくのが爽快で、こちらも素晴らしい仕上がり。無心でやってしまった。2019年の数あるゲームの中でも、SF系が好きなら絶対にやってほしい一作だ。頼むから滅茶苦茶売れて欲しい、後に続いて欲しい。

本作をここまで応援したくなるのは単純におもしろいのに加えて、各種演出について細部に染み渡るような普通ではない執念と狂気を感じるからで、メジャーゲームというか非常にインディーズ、個人制作的な空気を感じさせるんだよね。