今度8月6日に埼玉で行われるSF大会の一企画で、「SF入門書で「SF再入門」」という企画を牧眞司さん、池澤春菜さんと僕の三人で行う予定なのだけど、このイベント前に一度「自分はそもそもどうやってSFに入門したんだっけ?」を振り返っておこうと思った。そういう文章は(たぶん)今まで一度も書いてないのもあるし。
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僕の場合おもしろいのは、SFを明確にたくさん読み始めたのは大学生になってこのブログ(基本読書)を書き始めて以後のことで、SFにどのようにハマっていったのかの軌跡が残っている点にある。たとえば僕がこのブログを書き始めるきっかけになったのは神林長平の『膚の下』を読んで、自分も何かを書き残さねばならぬ! と強く決意して以降のことだ。しかしそもそもなぜ『膚の下』を読んだのかといえば、その前に僕が神林長平の『戦闘妖精・雪風』を読んで衝撃を受けていたからだった。
何でSFを読み始めたのか?
というわけで僕のSF入門の最初の作品は神林長平の『戦闘妖精・雪風(改)』だったといえる。そもそもなぜ雪風を読んだのかといえば、確か大学生協か何かの文庫案内みたいなパンフレットで、この作品の装丁とタイトルがあまりにもかっこよかったから(内容紹介はほぼなかった)、思わず手に取ったのだった。
そこから次々と神林作品を読んでいって、おそらく当時刊行されていたものはすべて読んだ。また、『膚の下』を読んだ後に、小松左京の『さよならジュピター』や星新一の『ご依頼の件』について書いている記事があるから、小松や星、筒井といういわゆる日本SFの御三家の作品を、入門した人間なりに読んでいたようである。
この当時読んでいたのはあまりにもジャンルがバラバラでどういう基準で読んでいたのかわからない。『さよならジュピター』を読んで、『ご依頼の件』を読んで、その後神林の『魂の駆動体』(傑作!)その後宮部みゆきの『ICO』のノベライズ読んで、押井守の『Avalon』ノベライズを読んで、その後森博嗣の『クレイドゥ・ザ・スカイ』を読んで、時雨沢恵一の『学園キノ2』を読んで、『敵は海賊・海賊版』を読んで、アンソロジー『地球の静止する日 SF映画原作傑作選』を読んでいる。
その後谷甲州の『軌道傭兵1』を、レムの『ソラリスの陽のもとに』を、神林の『ラーゼフォン時間調律師』を、次にヘッセの『車輪の下』、小野不由美の『黒祠の島』読んでいる。『さよならジュピター』を読んだのが2007年の7月25日で、その後『黒祠の島』を読んだのが8月5日だから、わずか10日あまりの間で15冊を読破していて自分のことながらほんとに読んでいるのか? とちょっと信じられない思いがする。
しかもその合間にヘッセやレムのソラリスが入ってるんだ。大学生の暇な夏休みだったとはいえすごすぎる。そのあともSFに目覚めたとばかりに名作を次々読んでいる。8月中にはベスターの『虎よ、虎よ』や山田正紀の『神狩り』『鼠と竜のゲーム』、ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』を。
この時期何を指針にして読むSFを選んでいたのかあまり記憶に残っていないが、ド定番、ド名作ばかり選んでいるので、たぶん何かのオールタイム・ベストを参考にして読んでいたと思う。2chかなんかのSF板だったかなんだかに貼られていた、SFの必読の名書リストみたいなのを参考にしていた記憶があるが、定かではない。
人生、ほとんどの期間に渡って僕は本を読み、楽しんできたわけだが、この2007年(大学一年生で、初めての大学での夏休み)の時期は、僕にとっては至高の一年だった記憶がある。SFという新しい世界のおもしろさに目覚め、かつての名作といわれる作品を次々と読んでいた時期だ。金がなかったので全部図書館で借りていたが、僕が読みたかったのは新刊ではなく古い本ばかりだったから、それで何も困らなかった。
ベスターを、クラークを、ホーガンを、ブラッドベリを、レムを、ティプトリーを、小松左京を、星新一を、筒井康隆を、山田正紀を、小川一水を、飛浩隆を、一気に読んだ年があったのだ。そりゃ、SFも好きになるわな。
どうやって選んでいたのか?
入門当時どうやってSFを選んでいたのか? 先にも書いたが、「オールタイムベストランキング」を参考にしていたのは間違いない。何のオールタイムベストランキングかは自信がないのだけど、最初に読んでいるのがほとんど海外作品であることから、定期的に行われているローカスのオールタイムベストを参考にしていたと思う。
本は参考にしなかったのか? 記録に残っているのは僕がSFを読み始めてすぐぐらいの頃に出ていた谷岡一郎『SFはこれを読め!』ぐらいで、他に何かブックガイド系のものを参考にした記憶がない。たぶん参考にはしなかったんだろうな。最初はとにかくオールタイムベストランキングで知った作品を読む→その後気に入った作家の作品をできるかぎり読む、といった形で芋づる式に読んでいた。ティプトリーがきにいったら全部読み、ブラッドベリが気に入ったら全部読み──というように。
それ以外の経路としては、僕の場合は読んだら記事を書いていたので、記事を読んだ人のおすすめを読んでいった記憶がある。イーガンを薦めてくれたのも当時ブログで交流があったdaenさんだった(彼とは今も毎月遊ぶぐらいには仲が良い友だちだ)。2009〜2010年あたりまで気に入った作品を読む→作家の作品を芋づる式に読むスタイルで、その後次第に新刊を中心に読む今のスタイルに変遷していったようだ。
雪風以前のSF
そういえば雪風以前、SFにハマる前に僕は時代小説やらライトノベルやらにドはまりしてそればっかり読んでいたのだけど、ライトノベルの中にもSFはあるので、その時点でかなり読んでいた記憶はある。筆頭といえるのはやはり秋山瑞人だろう。これもたしか2chのスレか何かで絶賛されていたのを見て読んだはずだが、『E.G.コンバット』の衝撃は凄まじく、高校への通学中に読み始めて、こんなおもしれえ小説を脇においたまま学校で勉強できるか!? と思いつつ授業をサボって読んだ記憶がある。
それ以降秋山瑞人の作品を読み漁ったのは言うまでもない。『イリヤの空』の衝撃もすごかった。ただこれはやはり僕の中では秋山瑞人、あるいはライトノベルそのものへのめりこむきっかけではあっても、「SF」というジャンルへのめり込むきっかけではなかったといえるだろう。
現在のSF入門
さて、では現在SFを読み始めようという人はどう入門したらいいのだろうかといえば、なんでもいいんじゃないかな。『SF超入門』の著者としてはこの本から入ってください、というべきなのだろうけど、僕自身が『戦闘妖精・雪風』と大学生協のパンフレットで衝撃的に出会った箇所から衝動的にのめりこみ、手当たり次第に読んでいったわけなので、何が入り口になるかはわからない。
結局、僕にとっての『雪風』のように、「なんて凄まじい作品なんだ!!」と、衝動に火をつける作品──それも、「ジャンルを体現する」かのような作品と出会えるかどうかが、あるジャンルにハマり込めるかどうかの大きな分水嶺であり、人によってその作品は異なるはずだ。そうした作品に出会う、あるいは出会った後に衝動を広げていく入り口としては、僕のようにオールタイムベストランキングを適当につまむとか、『SF超入門』を使うとか(池澤春菜さん監修の『現代SF小説ガイドブック』を使うとか)、色々なケースがある。
このブログをSFタグで絞ってめぼしいものをみつけてもらうのも良いだろう。今度、SFマガジンでは「SFをつくる新しい力」特集ということで、入門者向けのガイドも出るし、2023年はSFに入門/再入門する入り口・補助輪がたくさん出た年といえるかもしれない(『SF超入門』も『現代SF小説ガイドブック』も今年初めの刊行)。
というわけでいい感じに締めれそうなのでこれにておしまい。人によってどういうルート、ガイドブック、作品群を辿ってSFに入門していったのかは異なるはずなので、人の話も聞いてみたいですね(って、その話をSF大会でするはずなんだけど)。よかったらコメントや自分のブログでも何でもいいので、自分の入門話も書いていってね。