基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

「そもそも食べすぎず、食欲を抑える」ためにはどうしたらいいのか?──『肥満の科学: ヒトはなぜ太るのか』

とにかく現代は太りやすい時代である。食べ物は安くてカロリーの高いものがいくらでもあり、そのうえおいしいので、ブレーキがないといくらでも食べてしまう。ラーメン、焼き肉、生クリームがたっぷり乗ったアイス。シーズンごとにスタバの新作も出て──と、気を抜くと現代の人間はぶくぶくと太ってしまう。

現在アメリカでは人口の30〜40%が肥満(BMI30以上)で、10〜12%が糖尿病だという。日本ではBMI30以上の肥満者は4.5%だが基準を少し下げてBMI25以上でみると、20歳以上で男性33.0%、女性22.3%(厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」による)である。そのため多くの人がダイエットに励み、糖質制限から16時間断食まで数々のダイエット法が出てくるわけだが、そうそう簡単にうまくいくものでもない。

で、本書『肥満の科学』は、その副題通りにこのように、ヒトがなぜ太ってしまうのかについて解説した一冊だ。ヒトが太るのはカロリーがあるものを食べて、そのうえ運動しないからだ──というのは本質的にいえばその通りだが、原因はそれだけではない。たとえば、そもそも人間はなぜ過剰なカロリーを摂取してしまうのか。自然界では際限なくカロリーを摂取し脂肪があったほうが良いから(脂肪で生存期間が伸びるから)とすぐに推測しそうになるが、実際にはクマやネズミなどの野生動物は、一定の体重を保つ傾向がある。必要な分だけ食べたら、それ以上は食べないのだ。

野生動物がそうやって体重の自主管理しているのだとしたら、なぜ人間からはその能力が失われてしまっているのか──というのが、本書の中心的なテーマであり、「ヒトがなぜ太るのか」の答えのひとつになっている。本書を読んでその答えに迫ったからといって痩せられるわけではないが、自分が痩せられない、むしろ太っていく原因を歴史的・遺伝的な経緯から知ることができれば、納得感も出るだろう。

本書にはダイエット法についても記述もあるが、楽な方法というわけでは決してないので、楽して痩せて〜と思う人には非推奨の本ではある。ただし、おもしろい。

ヒトはなぜ太るのか?

さて、では人間からは体重の自主管理能力が失われてしまっているのか? それについて考える前に、野生動物が自分の体重を「増やす」時について触れておきたい。たとえばリスやクマが冬眠をする前だ。リスやクマは餌のとれない冬の間、代謝を落として眠ってやりすごすが、あまり食べたり飲んだりしないので、長い期間をやりすごすだけのエネルギーを脂肪としてあらかじめ蓄えておく必要がある。だから、冬眠前に野生動物は餌を探す回数が増え、ふだんより多い量を食べるのだ。

野生動物らはいくつかのトリガーをきっかけに著者がいうところの「サバイバル・スイッチ」がオンになり、いつもの食事量を超えた食料を求め始める。で、現代人はこのサバイバル・スイッチが常時オンになっているから、冬眠前でもないのに過剰な食料を求め、食べ続け、肥満になってしまう──というのである。

レプチンと空腹感

通常、食後に満腹感が得られるのは、レプチンというホルモンが脳の視床下部に「食べるのをやめなさい」という信号を送るからだ。レプチンは脂肪細胞から分泌されるが、過体重の人間はレプチンの信号に対する反応が悪く「レプチン抵抗性」と呼ばれる状態にあるため、食べても空腹感が続く。そして、どうやらサバイバル・スイッチが入った野生動物も(たとえばクマとか)このレプチンの信号に対する反応が悪くなり、その結果として普段の分量をはるかに超えて食物を探し回るようだ。

私たちが太りつつある第一の原因は、文化にあるのではない。それは、私たちの生物学的働きにあるのだ。文化が生物学的働きに対応しているのである。私たちはどういうわけか、意図せずに自然のサバイバル・スイッチを入れてしまったのだ。ダイエットや運動で一時的に体重を減らすことはできても、それを維持するのが難しいわけも、 そこにある。p.71

では、この「サバイバル・スイッチ」がオンになるトリガーとは何なのか? そのトリガーを完全に把握することができれば、トリガーを排除し、我々は適切な分量で食事に満足し、太ることもなくなるはずだが──というのが、本論になっていく。

トリガーを探せ

トリガーについては現在でもまだ研究が続いている状態で諸説あるのが現状のようだが、著者はその原因を主に「果糖(フルクトース)」に求めている。これは炭水化物の一種で、果物などに多く含まれる。血液中に含まれる主な糖であるブドウ糖(グルコース)に化学的によく似ており、どちらも単糖類と呼ばれる。自然界の食べ物を甘くしている主な糖はこの果糖で、クマやリスが手に入れる糖の多くもこの果糖だ。

で、クマやキツネザル、渡り鳥の多くは休眠・冬眠・遠方への旅立ちの前に果実を多く摂取する。その方がカロリーが多く摂取できるから──というのも理由の一つだろうが、どうやら果糖を接種することで、レプチンの信号に対する反応が悪くなる=空腹感を感じにくくなるようなのだ。それを実際に示す実験もある。

通常、高カロリー飲料を与えると全体的な摂取カロリーを一定にするために、動物は摂取する餌の量を自発的に減らすことは先に書いた。しかし、実験用マウスに果糖を飲料水として与えたところ、最初は餌の量を減らして調節していたが、数週間も経つとより果糖入りの飲料水を飲み、食物の摂取量も増え、カロリー摂取量は上昇していったという。さらには、活動量も減り、数カ月後には、対照群のマウスと比べて脂肪を顕著に増やし、脂肪肝とインスリン抵抗性を発症したのだ。

これは倫理的な問題も感じられるが人間でも同様の実験が行われていて(10週間にわたって果糖飲料を摂取させたところ、計算されたエネルギー必要量より多くとり1.4kg体重も増えた)、同様の結論が得られている。

動物が秋に果実や蜂蜜の摂取量を劇的に増やすのは、これらの食品が入手可能なカロリー源であるからというよりも、これらの食品に含まれる果糖が体重の正常な調節機構を解除してサバイバル・スイッチを活性化するのに欠かせないためかもしれない。(p.86)

いや、それって結局甘いものが高カロリーだから太ってるんじゃないの? と思うかもしれないが、「果糖を食べさせた後、食物摂取量を増やさない」実験を行うことでその検証も可能である。実際、ラットでこの実験を行ったところ、体重増加は(果糖摂取群の)わずかな増加でとどまったのだ。

おわりに

果糖がスイッチをオンにする理由にも軽く触れておこう。動物は果糖を体内で代謝する時に、エネルギーの供給源(代謝の時にも利用される)であるATP(アデノシン三リン酸)を使用する。その時、細胞内でのATPのレベルが急低下し、体はそれを緊急事態とみなすことで空腹感をもたらすのだ。『要するに果糖が働く仕組みは、細胞内に低エネルギー状態を作り出して飢餓状態を模倣し、体にエネルギー危機のシグナルを送る、というものだ。これがサバイバル・スイッチを〝オン〟にするのである。』(p.100)

なーんだ、じゃあ果糖をとらなければ痩せられるやんガハハと思うかもしれないが、実は果糖は外部から摂取しなくても体内で生成されてしまうのでそう簡単にはいかない。「ポリオール経路」として知られるプロセスが、ブドウ糖を果糖に変換するのだ。で、血糖値を上昇させる能力を表したGI(グリセミック・インデックス)が高い炭水化物をとることがポリオール経路を活性化させる引き金のひとつで──と、果糖からはじまった物語は次第に炭水化物・ブドウ糖へと移り変わっていくことになる。

結局、高GIのご飯やパンは脱肥満のためにはできるだけ避けたほうがいいのだ。ポリオール経路の引き金も一つではなく、脱水状態(ゆえに、水は多めに飲んだほうがいいし、アルコールは控えたほうがいい)や尿酸値が高い時など多岐に渡る。

本書では他にも、具体的に歴史上人間が太り始めたのはいつなのかであったり、具体的なダイエット方法についても後半で触れていくので、気になったら読んでみてね。ここで書いた説明も、本文中ではより詳しく書かれている。