著者である高橋昌一郎さんの前著、『理性の限界』がすこぶる面白い一冊であったので、続編たるこちらも読んでみる。「言語の限界」「予測の限界」「思考の限界」の三つを通して、人間の知性に限界はあるのか、あるとしたらそれはどこか、といったことを追求していくのが本書の主な内容。圧巻なのは取り扱う内容の幅の広さで、目次を見てもらえればわかるけれどもウィトゲンシュタインやファイヤアーベントといった思想哲学から複雑系や宇宙論といった科学畑までを一気に紹介してしまうのには恐れ入った。しかも、わかりやすい。
本書最大の魅力は、あとがきにおけるこの部分に集約されているかもしれない。
自然科学や人文科学や社会科学の専門化された枠組みでは捉えきれない部分にこそ、それらが絡み合った驚異的に興味深く奥深い問題がそびえていることも事実である。私は、その中でも最高峰に位置する「限界」の問題を少しでも明らかにできないものかと思考錯誤を重ねている最中であって、本書もその一つの成果なのである。
「絡み合った驚異的に興味深く奥深い問題」なんて言われると、「さすがにそれは言い過ぎだろう」と思いつつも、すさまじく興味をそそられる。本書の魅力とは簡単に言ってしまえば、普段は別の問題として区分されてしまう科学や哲学を分け隔てなくぐちゃぐちゃに、並列的に議論させるところにあると思います。そうすることによって氏があとがきでいうところの「興味深く奥深い問題」にたどり着くのです。
本書がどうやってそれを達成したかといえば、架空の人格を幾つも登場させて議論させる形式によって、です。会社員から大学生、カント主義者から科学主義者、論理実証主義者と実にさまざまな役割を与えられた人たちが、同じ一つの問題についてがやがやとそれぞれの立場から議論を交わしていく。これこそまさに「絡み合った」状態といえるでしょう。また、それぞれの立場が明確に分かれているからこそ議論の流れが把握しやすく、それゆえにわかりやすいのです。
議論する内容は以下の通り。
序章 シンポジウム「知性の限界」開幕――「理性の限界」懇親会場より/第一章 言語の限界 1 「論理哲学論考」のパラドックス 2 ウィトゲンシュタインの言語ゲーム 3 指示の不可測性 4 言語理解の限界と可能性/第二章 予測の限界 1 帰納法のパラドックス 2 ポパーの開かれた宇宙 3 予測の不確実性 4 未来予測の限界と可能性/第三章 思考の限界 1 人間原理のパラドックス 2 ファイヤアーベントの知のアナーキズム 3 究極の不可知性 4 人間思考の限界と可能性
いつもは「ぼくがこの本を読んでお勉強したこと」をここに書くわけですが、非常に多岐に渡るために全部書いていたらとてもじゃないけれどもブログじゃ余白が足りないのでこれにて終。それぐらい内容が凝縮された一冊だったということで。一応、個人的に面白かったところをあげておくと、「すべての哲学的問題に対して本質において最終的な解決を与えた」という『論理哲学論考』のまとめ。それから「帰納法の限界」の二つです。
知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)
- 作者: 高橋昌一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/04/16
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理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)
- 作者: 高橋昌一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/17
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