基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

水滸伝 十九/北方謙三

ついに、完結。字数制限に引っ掛かったため改行少なめで。

読み終わった瞬間に終わったぁ・・・と実感にひたり数分放心状態。いやぁ死ぬ前に読めて良かった。思えばここまで結構長かったな。どれぐらいの時間を水滸伝にかけたかわからぬ。一冊二時間ちょっとで読んだとしても、40時間はかかっている計算になる。それだけの間水滸伝には楽しませて貰った。まったく感謝という他ない。

ひょっとしたら作者が途中でまとめきれなくなってしょうがなく楊令伝を出さざるを得なくなったのではないか、という疑問もあったが、やっぱりそれはなさそうだ。自分がまだまだ書ける、と実感を得て、出来るだけ壮大な物語を書きたい、という言葉を現実のものにしているのだろう。楊令伝が全十巻予定だが、もしその通りにいったら全部で二十九巻の物凄い量の物語になる。もちろん水滸伝のようにオーバーする事も考えられるのでもっと増える事もあり得る。いったいいつから楊令伝を出そうと考えていたのかはわからないけれど、本格的に次世代を意識した引き継ぎ、というようなテーマが出てきたのは十二、三巻あたりからだったように思う。主要キャラクターの子供が生まれ、きっと新たな梁山泊の主力メンバーになっていくのであろう。たくさんの人間が死んだ。間違いなくこの巻が一番多くの死者を出している。死者名簿が見れないのでわからないけれど、確実に二十人以上は死んでいる。これで108星のうち生き残っているのは30〜40というところだろう。

もし次世代に受け継がれていくとしても、果たして指揮を出来る人間がいるのかどうか。李俊と張清ぐらいしか残ってないんじゃないか。ああ呼延灼も生き残っているか。それに年齢の関係もある。〜そして三年後〜なんてやっていたら戦力外になるような人間はひょっとしたらあらかた殺させておいたのだろうか。秦明しかり、林冲しかり。

確かに林冲が生き残っていたとしても、三年たったら馬は歳で使い物にならなくなり、林冲自身もどんどん弱くなっていっただろう。作中でもいってたように、老いる前に死んで幸せだったかもしれんな。やはり。

さすがに二十人以上も死ぬと、ほっとんど描写されないキャラクターも出てくる。結構悲惨なやつもいる。凌振とかもあれだったけど、まぁ大砲バカらしい最期で非常に良かったといえばいいのかもしれんな。それから、やっぱり長く続いた物語のラストだからしょうがない話ではあるのだが、今までの伏線といっていいのかわからないが伏線の回収がかなり駆け足になってしまっている感があった。それはどうしようもないことなのだろう。王英と扈三娘の話だったり、凌振の大砲の話だったり。

死ぬ時の描写を与えられながらも、何一つ出来ずに死んでいった奴もいた。あいつは非常にかわいそうだった。何しろ影が薄いもので名前すら忘れてしまった。石勇だったようなきがするのだが。黄信もなかなか最悪なやつであった。最初から最後までなんか愚痴ばっかり言ってる北方水滸伝の中じゃ例外的に男らしくないやつだった。死に方も敵に囲まれてめった刺しというなんら新しいものでもなし。ひょっとして北方謙三黄信に何か個人的な恨みでもあるんじゃないんすか?といいたくなるような微妙な最期だった。しかし途中見せ場があった事を考えればまぁ恵まれたキャラともいえる。


 「いつか、私の存在は生きる。梁山泊にとって、生きる。私は、そう自分に言い聞かせて、いまじっとしている」
 「虫のいい話じゃねえか、唐昇。叛乱ってのはよう、はじめたらもうやめられるわけはねえんだ。おまえは、梁山泊の背中に隠れて、食わして貰ってるだけさ」
 「いずれ、生きる。必ず、生きる」


きっと楊令伝で反撃の狼煙があがるのは北なんだろうなぁ。それを思うと未来を信じて今じっと耐えている唐昇が異常にかっこよく見える。
童貫との戦い、全体としてはずっと押されまくっていたが、ことvs童貫戦だけを見れば結構いいところまでいっている。ほとんど楊令のおかげで。思えば宋側も童貫を失ったら負けの可能性がかなり大きくなってくるわけでその意味じゃお互いに賭けをしているようなものだったな。童貫が死んだらその代りを務める人間がいない。だから本当にきわどいところだったといえる。もし仮に楊令伝とかいう構想がなかったら梁山泊勝ちになっていても全くおかしくなかった。

キューバ革命をモチーフにしているというのならば当然最後は勝つのだろうという気はしている。

花栄の弓が強すぎて、微妙に現実感が湧いてこない。あるいは梁山泊メンバーの中で一番非現実的な能力を持っていたかもしれない。というか次から次へと指揮官を弓で撃ち落とすってそりゃあんた反則だろーが。


 「済まんな」
 花栄は言った。
 「なにがだ、花栄?」
 「きれいに殺して、やれなかった」
 自分の口もとが、微笑むのがわかった。


趙安運が良すぎるっていうか何故死なないのだろうか。いや、まだ彼にはやる事があるというんだろう。ただ何故二回ともわざわざ重傷を負わせる必要があるのか。運がいいというレベルではないのである。いつも皮一枚生存する。

花栄は最後までかっこよかったなぁ。きれいに殺して、やれなかったってそりゃあんた最期の最後まで獣みたいにかじりついていってたからな。読んでいる間に鳥肌が立ったわ。ほとんど誰も見ていないのが残念だが誰かが見ていたら朱全におとらない死にざまとして評判になっただろうに。

全く大砲の話が出てこなかったのでひょっとして大砲ってそのまま忘れられていくのか・・・!?と心配だったがちゃんと書かれていて安心した。まぁ思ったより大した威力じゃなかったんで拍子ぬけといえばぬけたのだが。


 「三発だ。三発で、ほぼ燃える。四発撃ち込めば、どうあがいても消すことはできんぞ。見えるか、魏定国。俺とおまえの、瓢箪弾だ。ついに、完成したぞ」
 凌振は、半分泣きながら、手を打って踊っていた。


こいつはこいつで真っ直ぐな男だった。あまりにも真っ直ぐすぎて読んでいてバカだなぁとしか思えなかったがこうやってただひたすら大砲をうてる事を喜んでいるとむしょうに泣けてくる。しかも、俺は大砲に触るだけで大丈夫かどうかわかるんだ!みたいに得意げにいってたのに、結局最後は大丈夫じゃないところまで大砲を打ち続けて大砲と一緒に爆発しちまうんだから全く笑ってしまう。まぁ大丈夫じゃないと知りながら梁山泊のために打ち続けた可能性もなきにしもあらずだ。その可能性を信じてやろう。

李逵も死んでしまった。まさか死ぬとは思えなかった。読んだあとも、え?死んだの?マジ?という感じで信じられなくて二回ぐらい読みなおした。どう考えても死んでいる。しかも水の中で。いや、死ぬならば水の中だろうという考えは確かにあったが、ここでか?ここで死ぬのか?あまりにもあっさりと死んだ。本当にあっさりと死んだ。


 敵はどこなのか。板斧を構えたまま、李逵は相手を捜した。なにか、おかしい。すべてがぼやけて見える。それに、息ができない。李逵は、板斧を振るった。手応えはない。
 どうしたのだろう。いつもなら、跳びあがれる。しかし、いくら蹴っても、そこに地面がない。 
 あっ、大兄貴。李逵はすぐそばに、魯達の姿を見て、そう言った。
 父上も、小兄貴も、しっかり生きてますぜ。それに俺も。魯達が、さらに近づいてくる。なにも言ってくれない。そういえば、魯達は死んで、喋る事は出来ないのだ、と李逵は思った。大兄貴を殺した奴は、俺の板斧で首を飛ばせないしな。なにしろ病ってやつだからな。
 次に李逵は、旅に出る事を考えた。宋江も武松も、そして魯達も一緒だ。
 大兄貴。呼びかけようとしたが、魯達はいなくなっていた。


李逵、没。

まぁ李逵花栄に勝るぐらいの反則キャラクターだったからな。林冲や王進の強さとは、また別次元の強さとして書かれていたけれどいったいそれがどんな強さなのか全くわからなかった。説明出来ない強さというやつだ。恐ろしいほどの活躍をした。そういうキャラクターはやはり死ななければならないのだろうか。

許貫忠も重要なキャラになりそうだとは思っていたが、楊令伝での重要なキャラクターになるようだ。ここでは呉用と少し話しただけである。


 「生きている人がいる。それは数多い。しかし、死んだ人間の多さは、無限に近いと思います。無限の死の上に、数多い人の生はあるのではありませんか?」
 「なにを言いたい?」
 「死は、無意味であると。だから、私は自分で死ぬことが出来ないのです」


王英と扈三娘のくだりは本当に意味がわからんな。こんなちょっとだけエピソードを入れるぐらいならむしろ無かった方がいいぐらいだ。

安道全も死んだ。こいつなら病気がある限り逃げて、生き延びて病気の人間を助けるかと思ったが、よく考えたら目の前にある病気を放置して逃げるような男じゃなかった。安道全。


 人生の終りの十数年を、この男とともに生きることができた。それだけで充分すぎる、と薛永は思った。

このコンビも、もう見る事が出来ない。たかだか小説のキャラクターが死んだだけ、と斬って捨てるような事が出来ない。思いのほか、のめり込んでいる。

宋江の元に走る楊令を待っている宋江が、二巻の時の宋江とかぶる。


 「なぜか、信じていた。おまえがここへ来るに違いない、と信じて、ここで待った」


二巻の終りでもそういって、林冲を待っていたんだった、結局宋江は最初から最後まで何一つ変わっていない。ずっと宋江のままだった。十巻ぐらいからほとんど何の出番もなく、結局最後までほとんど空気だったし、それどころか最終巻じゃ戦に出たがってやたらと邪魔だったが。というかどう考えても死にたがってる感じだったしなぁ。そりゃ自分は何もできずに長年の友がどんどん死んでいけば死にたくなるのも当然だという気はする。それでも最期のこの引き継ぎという役目を終えるまで待っていたんだろうと思うと感慨深い。二回目だが、何しろこのセリフ、林冲の時とほとんど同じなのだ。二巻のあのシーンを思い出して、ついでにいろいろな事も思い出して泣いた。


 「旗だ。はじめて梁山泊に掲げたのが、この小さな旗だった」
 楊令は頷いた。差し出されたので、それを受け取った。
 「この旗が、おまえの心に光を当てる」

 
受け継がれていく替天行道の志。反乱がおきるから国が荒れるのではなく、国が荒れているから反乱がおきるのだ。宋という国が変わらない限り、梁山泊の志が消える事はない、とそういう事を言っていたような気がする。


 「この楊令は、鬼になる。魔神になる。そうして、童貫の首を奪る。この国を、踏み潰し、滅ぼす。いつの日か、おまえの眼の前にこの楊令が立っていると、童貫に伝えろ」

完全に復讐の鬼になったなあ、楊令。それでいいのだろうか。元々腐っている宋という国をなんとかしようという志ありきで始まったのに、楊令によってただの復讐劇になってしまうのではないだろうか?それを正してくれる人間が残った梁山泊のメンバーの中にいるのだろうか。王進がいる限り大丈夫なようなきもするが。誤った道を進む楊令をまたぼっこぼこにするとか。でも王進も結構歳いってるきがするんだがなぁ。というか、もうどんどん梁山泊の人間も老いぼれていく。せっせと作中で子どもを産ませていたが、いったい何人ぐらいいるのやら。楊令伝を読んでみないとわからんなぁ。