基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

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ケン・リュウによって集められた、量も多様性も増した至極の中国SF作家&短篇勢揃い──『月の光 現代中国SFアンソロジー』

月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:劉 慈欣発売日: 2020/03/18メディア: 新書この『月の光』は、ケン・リュウによって集められた、中国の精鋭SF作家らによるアンソロジー『折りたたみ北京』に続く中国SFアンソロジー第二弾であ…

ドイツと日本が世界の覇権を競っている西暦2600年を描き出す、1937年刊行のディストピアSFの古典──『鉤十字の夜』

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【送料無料】 鉤十字の夜 / キャサリン・バーデキン 【本】価格: 2750 円楽天で詳細を見る『鉤十字の夜』は、キャサリン・バーデキンによって書かれたイギリスのディストピアSFである。刊行年は1937年で、ディストピア系の代表作のひとつオルダス・ハクスリ…

電子生命の生きる道はどこにあるのか──『キャサリンはどのように子供を産んだのか?』

キャサリンはどのように子供を産んだのか? How Did Catherine Cooper Have a Child ? (講談社タイガ)作者:森 博嗣発売日: 2020/02/21メディア: 文庫講談社タイガで刊行中の、森博嗣によるWWシリーズ『それでもデミアンは一人なのか?』に次ぐ第三巻である…

「いま・ここ」にいる人たちに読んで欲しい、東京に核が持ち込まれた状況を描き出す、藤井太洋による緊迫の現代スリラー──『ワン・モア・ヌーク』

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ワン・モア・ヌーク (新潮文庫)作者:藤井 太洋出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2020/01/29メディア: 文庫この『ワン・モア・ヌーク』は、近未来サスペンス・SFの書き手として知られる藤井太洋の最新作。2020年の3月11日。日本人にとっては忘れることのできな…

『三体』の劉慈欣が「近未来SF小説の頂点」とまで言った、ページをめくる手が止まらない圧巻の中国SF──『荒潮』

荒潮 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:陳 楸帆発売日: 2020/01/23メディア: 新書この『荒潮』は中国のSF作家を代表する一人と言われる陳楸帆による初の(そして今のところ唯一の)長篇SF小説である。陳楸帆の小説は、日本でも刊行された現代中国SFアン…

『ゲド戦記』や『闇の左手』のル・グインによる、最後のエッセイ──『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』

暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて: ル=グウィンのエッセイ作者:アーシュラ・K・ル=グウィン出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2020/01/25メディア: 単行本ル・グインは何をおいても『闇の左手』や『ゲド戦記』の、類まれなSF作家・ファ…

崩壊しかかっている作品をメタ的な観点から強引にまとめあげる、パワーワード連発のSF問題作──『大絶滅恐竜タイムウォーズ』

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)作者:草野 原々出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/12/19メディア: 文庫『最後にして最初のアイドル』の草野原々による………なんだ? なんだかよくわからないが、とにかく進化と宇宙と時空がめちゃくちゃになっ…

存在しない書物についての書評集にして、レムの代表作の一つ──『完全な真空』

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完全な真空 (河出文庫)作者:スタニスワフ・レム出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2020/01/07メディア: 文庫この『完全な真空』は『ソラリス』のスタニスワフ・レムの代表作のひとつにして、存在しない書物についての書評集である。もともと単行本として…

銀河サイズの超知能AIはどのように思考するか? などはるか未来の知能の在り方が模索される──『LIFE3.0――人工知能時代に人間であるということ』

LIFE3.0──人工知能時代に人間であるということ作者:マックス・テグマーク出版社/メーカー: 紀伊國屋書店発売日: 2019/12/27メディア: 単行本この『LIFE3.0』は人間の知能を遥かに超えた超知能AIが出現したら何が起こり得るのかを、AIの安全性研究や有識…

《天冥の標》から『息吹』まで、多数の傑作SFが刊行された2019年を振り返る

息吹作者:テッド・チャン出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/12/04メディア: 単行本 傑作揃いの短篇集 今年のSFでまず中心的に語っておきたいのは*1、素晴らしい短篇集が多数出たことだ。たとえばテッド・チャン『息吹』は著者一七年ぶりのSF短篇集で…

『サピエンス全史』のハラリがはじめて現代の諸問題を真正面から取り扱った最新刊──『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』

21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考作者:ユヴァル・ノア・ハラリ出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2019/11/19メディア: 単行本『サピエンス全史──文明の構造と人類の幸福』で、「虚構を操る力こそが人類を生き残らせた」という観点から過去を。…

全長一マイルにも及ぶ巨大な竜がかつて支配した町を描き出す、至高のドラゴン・ファンタジィ──『タボリンの鱗』

タボリンの鱗 竜のグリオールシリーズ短篇集 (竹書房文庫)作者:ルーシャス・シェパード出版社/メーカー: 竹書房発売日: 2019/12/26メディア: Kindle版この『タボリンの鱗』は全長1.6kmにも及ぶ巨大な竜をめぐるファンタジィ奇譚が集まった中短篇集『竜のグリ…

複雑な人間関係・時代関係がカタルシスへと直結していく、尖りすぎた近年最高峰のSFアドベンチャーゲーム!!──『十三機兵防衛圏』

十三機兵防衛圏 - PS4作者:出版社/メーカー: アトラス発売日: 2019/11/28メディア: Video Gameいやはやこれは本当におもしろい、今年最高のゲームだった。『オーディンスフィア』などで知られるヴァニラウェア✗アトラスの新作だが、タイトルからもわかるよう…

今年も早川書房が海外SF作品の電子書籍セールをはじめたので、新刊を中心におすすめをピックアップ! 2019年版

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ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)作者:ウィリアム ギブスン出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/04/30メディア: Kindle版この数年は毎年の恒例となっている早川書房の海外SF作品電子書籍セールが今年も(2019年)このぎりぎりの年の瀬に始まったので…

韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めた極上のSF短篇集──『となりのヨンヒさん』

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となりのヨンヒさん作者:チョン・ソヨン,吉川 凪出版社/メーカー: 集英社発売日: 2019/12/13メディア: 単行本この『となりのヨンヒさん』は韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めたSF短篇集。こういっちゃあなんだけど「とな…

二年連続でヒューゴー賞・ローカス賞を受賞した、自省的な人型殺人警備ユニットの日常録──『マーダーボット・ダイアリー』

マーダーボット・ダイアリー 上 (創元SF文庫)作者:マーサ・ウェルズ出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/12/11メディア: 文庫マーダーボット・ダイアリー 下 (創元SF文庫)作者:マーサ・ウェルズ出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/12/11メディ…

アジアンテイストな〈シュヤ宇宙〉を舞台に、宇宙船の魂を人が孕む特殊な世界観を描き出すSF短篇集──『茶匠と探偵』

茶匠と探偵作者:アリエット ド・ボダール出版社/メーカー: 竹書房発売日: 2019/11/28メディア: 単行本この『茶匠と探偵』は、現実とは異なる歴史をたどって中国やベトナムの文化・価値観が支配的になった〈シュヤ宇宙〉に属する短篇を集めた日本オリジナル編…

今世紀最高のSF短篇集といっても過言ではない、テッド・チャン最新作──『息吹』

息吹作者:テッド・チャン出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/12/04メディア: 単行本ついにテッド・チャン最新短篇集『息吹』が刊行された! テッド・チャンは映画『メッセージ』の原作が含まれているSF短篇集『あなたの人生の物語』の著者として知られ…

世界に対する認識そのものが問われる、SF密室ミステリィ──『世界樹の棺』

世界樹の棺 (星海社FICTIONS)作者:筒城 灯士郎,淵゛出版社/メーカー: 講談社発売日: 2019/11/17メディア: 単行本(ソフトカバー)この『世界樹の館』は、『ビアンカ・オーバーステップ』という作品で衝撃のデビューを飾った筒城灯士郎の最新作である。ビアン…

月から飛来したウィルスが船橋を恐怖に叩き落とす、圧巻のディザスター・ミステリ──『月の落とし子』

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月の落とし子作者: 穂波了,Kanehira K出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 単行本この商品を含むブログを見るこの『月の落とし子』は穂波了のデビュー作(ただし別名義でのデビュー作あり)にして、第9回アガサ・クリスティ賞の大賞受賞作で…

早川書房のSFコンテストを受賞した二作(ハードSFの期待の新星『オーラリメイカー』、描写で魅せる重厚なSFファンタジィ『天象の檻』)を同時に紹介する。

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オーラリメイカー作者: 春暮康一,rias出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 単行本この商品を含むブログを見る天象の檻作者: 葉月十夏,長乃出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 単行本この商品を含むブログを見る春暮康…

世界最大の詐欺のため、詐欺師を中心とした各分野のプロフェッショナルが集合するSF版オーシャンズ11──『量子魔術師』

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量子魔術師 (ハヤカワ文庫SF)作者: デレク・クンスケン,金子司出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 文庫この商品を含むブログを見るこの『量子魔術師』はカナダ生まれの作家デレク・クンスケンによる第一長篇にして、スペース・オペラ版オ…

特殊な能力者たちが運営する世代宇宙船《ノア》で起こった、〈ひき肉〉殺人事件を解き明かすディストピア・宇宙SF──『果てなき護り』

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果てなき護り 上 (創元SF文庫)作者: デイヴィッド・ラミレス,中村仁美出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/10/24メディア: 文庫この商品を含むブログを見る果てなき護り 下 (創元SF文庫)作者: デイヴィッド・ラミレス,中村仁美出版社/メーカー: 東京…

ヴァーチャルの比重が増し、リアルが縮小した世界──『神はいつ問われるのか? When Will God be Questioned?』

神はいつ問われるのか? When Will God be Questioned? (講談社タイガ)作者:森 博嗣発売日: 2019/10/23メディア: 文庫講談社タイガで刊行中の、森博嗣によるWWシリーズの、『それでもデミアンは一人なのか?』に次ぐ第二巻である。書名に巻数表記もないし、…

『ギルガメシュ叙事詩』から『叛逆航路』まで、神話、SF、幻想、ファンタジィ中心の最高のブックガイド!──『世界物語大事典』

世界物語大事典作者: ローラミラー,巽孝之,Laura Miller,越前敏弥出版社/メーカー: 三省堂発売日: 2019/10/11メディア: 単行本この商品を含むブログを見るこの『世界物語大事典』はすごい本だ! この世界には様々な本が存在するが、その中でも「僅かなりとも…

能力者たちが跳梁跋扈するアジア都市を舞台にした、世界幻想文学大賞受賞のSFマフィア物──『翡翠城市』

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翡翠城市(ひすいじょうし) (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5045)作者: フォンダリー,大谷真弓出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/10/17メディア: 新書この商品を含むブログを見るこの『翡翠城市』は、少ない作品数ながらも軒並み評価の高いフォンダ・リーに…

技術がもたらした価値観の変容が事件へと密接に関わってくるSFミステリ短篇集──『ベーシックインカム』

ベーシックインカム作者: 井上真偽出版社/メーカー: 集英社発売日: 2019/10/04メディア: 単行本この商品を含むブログを見るベーシックインカムと言うと、普通は全国民に一律3万なり10万なりといった一定額を定期的に振り込み続ける、最低給付保障をさす言葉…

SFミステリアドベンチャーゲームの快作──『AI:ソムニウムファイル』

AI: THE SOMNIUM FILES(アイ: ソムニウム ファイル) -Switch 【CEROレーティング「Z」】 (【予約特典】スペシャルサウンドトラック~REVERIES IN THE RaiN~ 同梱)出版社/メーカー: スパイク・チュンソフト発売日: 2019/09/19メディア: Video Gameこの商品を含…

奇想からSFまで、尽きぬアイディアに支えられた極上の超短篇集──『銀河の果ての落とし穴』

銀河の果ての落とし穴作者: エトガル・ケレット,広岡杏子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2019/09/20メディア: 単行本この商品を含むブログを見るこの『銀河の果ての落とし穴』は、イスラエル生まれの作家エトガル・ケレットによる短篇集である。正直…

『ゲームの王国』、小川哲による歴史×時間SF短篇集──『嘘と正典』

嘘と正典作者: 小川哲出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/09/19メディア: 単行本この商品を含むブログを見る『なめらかな世界と、その敵』の伴名練を筆頭に今30代前半にはやたらと熱いSF作家が揃っているのだけれども、そのうちの一人がこの小川哲だ。…