基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

宮内悠介最新作にしてカジノでの勝敗がすべてを支配する特殊国家を舞台にした国盗り賭博小説!──『黄色い夜』

黄色い夜 (集英社文芸単行本)作者:宮内悠介発売日: 2020/07/03メディア: Kindle版『黄色い夜』は宮内悠介によるギャンブルものの長篇(というほど長くない)小説である。舞台となっているのは東アフリカのエチオピアと国境を接するEという国家。そこは産業がカ…

思考や人間関係も整理する森博嗣『アンチ整理術』から現代の諸問題を整理するハラリの『21 Lessons』などを紹介(本の雑誌2020年2月号掲載)

まえがき 本の雑誌2020年2月号に掲載された新刊めったくたガイドの僕が書いたノンフィクションガイドをここに転載します。連載2回目。1回目は楽勝だったんですけど2回目は「え、もう次の締切なんですか!?」と焦っていた記憶がある。そのせいもあってか文章…

『三体』読んだらこれを読めと手渡せる、現代中華SFを概観できるアンソロジー──『時のきざはし 現代中華SF傑作選』

SF

時のきざはし 現代中華SF傑作選作者:江波,何夕,糖匪,昼温,陸秋槎,陳楸帆,王晋康,黄海,梁清散,凌晨,双翅目,韓松,吴霜,潘海天,飛氘,靚霊,滕野発売日: 2020/06/26メディア: 大型本最近中国SFが盛り上がっている。『三体』が売れてる(全部合わせて30万部突破。単…

我々はどこまで世界を作り変えるべきか?──『合成テクノロジーが世界をつくり変える: 生命・物質・地球の未来と人類の選択』

合成テクノロジーが世界をつくり変える: 生命・物質・地球の未来と人類の選択作者:クリストファー・プレストン発売日: 2020/07/07メディア: 単行本この『合成テクノロジーが世界をつくり変える』は、ナノテクノロジー、遺伝子工学、環境工学といった幅広い分…

監督作だけでなく脚本・原案作まで含めてタランティーノを解き明かそうとする評伝──『クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男』

クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男作者:イアン・ネイサン発売日: 2020/06/26メディア: 単行本この『クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男』はそのまんま、書名に入っているようにタランティーノについての評伝である。生い立ちか…

アメリカの投票の公平性がいまもなお脅かされつづけていることを記した、闘いの歴史──『投票権をわれらに:選挙制度をめぐるアメリカの新たな闘い』

投票権をわれらに:選挙制度をめぐるアメリカの新たな闘い作者:アリ・バーマン発売日: 2020/06/16メディア: 単行本本書はアメリカにおける「投票権」をめぐる闘いを記した一冊である。これは本当にえらい本で、歴史的な流れとしてどのようにアメリカでアフリ…

リモートワークするならとりあえず読んでおくといい本──『リモートワークの達人』

リモートワークの達人 (ハヤカワ文庫NF)作者:ジェイソン・フリード,デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン発売日: 2020/07/02メディア: 文庫この『リモートワークの達人』はソフトウェア開発会社の「ベースキャンプ」の創業者ジェイソン・フリードと同社の…

17世紀のイギリスを舞台にシャーマンキング的能力を持った少女が生存を賭けて奮戦するファンタジイ──『影を呑んだ少女』

影を呑んだ少女作者:フランシス・ハーディング発売日: 2020/06/22メディア: 単行本この『影を呑んだ少女』は『嘘の木』や『カッコーの歌』で主に児童文学方面から高い評価を受けているフランシス・ハーディングによる三作目にして最新邦訳である。フランシス…

VRの父がインターネットの黎明期を通して「あらためて我々はどこへ向かうべきなのか」と問いかけてみせた一冊──『万物創生をはじめよう』

万物創生をはじめよう――私的VR事始作者:ジャロン・ラニアー発売日: 2020/06/18メディア: 単行本この『万物創生をはじめよう』は、最初期のVR技術の探求、起業者であり、VRの父と呼ばれるジャロン・ラニアーによる自伝的な一冊である。幼少期からはじまり、VR…

意識のアップロードを望むか?──『幽霊を創出したのは誰か? Who Created the Ghost?』

幽霊を創出したのは誰か? Who Created the Ghost? WWシリーズ (講談社タイガ)作者:森博嗣発売日: 2020/06/18メディア: Kindle版講談社タイガで刊行中の、森博嗣によるWWシリーズ『キャサリンはどのように子供を産んだのか』に次ぐ第…

自炊観の変遷

普段本についてばかり書いているこのブログだが今日は一人暮らしの自炊について書いてみたい。これは自炊を勧める文章ではなく、ただ自分の自炊の解像度が数年前からあがったので、それについていま、何を考えているかの覚え書きである。たとえば、どこから…

あの『三体』の続篇がついにきた! すべてのスケールがアップし、人類の命運をかけた”終末決戦”が描かれる超傑作!──『三体Ⅱ 黒暗森林』

三体Ⅱ 黒暗森林(上)作者:劉 慈欣発売日: 2020/06/18メディア: Kindle版ほとんどの日本人にとって馴染みのない「中国の小説」そして「SF」であるにも関わらず刊行当初から飛ぶように売れ、13万部も突破した劉慈欣による中国のSF三部作『三体』! 本作『三…

暗殺作戦、苦難のすべてがこの一冊にまとまった、圧倒的な密度を誇る大著──『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』

イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史(上)作者:ロネン バーグマン発売日: 2020/06/04メディア: Kindle版イスラエルの諜報機関──モサド、シン・ベト、アマンの3機関はその能力の高さから世界中に恐れられている。何より暗殺の作戦数が豊富で、一説によるとイス…

現在進行形の危機を扱う『危機と人類』をぐいぐい読む!(本の雑誌2020年1月号掲載)

まえがき 本の雑誌2020年1月号に掲載された新刊めったくたガイドの僕が書いたノンフィクションガイドをここに転載します。連載初回で「かましたるぜおらぁ!」みたいにけっこう気合の入った本のラインナップになっているかなと。ブック・ガイドはもう何年もS…

史上初の三年連続ヒューゴー賞を受賞した超弩級の破滅SF──『第五の季節 破壊された地球』

第五の季節 〈破壊された地球〉 (創元SF文庫)作者:N・K・ジェミシン発売日: 2020/06/12メディア: Kindle版アメリカの女性作家N・K・ジェミシンによるこの『第五の季節』は、史上はじめて三年連続でヒューゴー賞を受賞したThe Broken Earth三部作の第一部…

薬物はどのように精神を変質させるのか?──『幻覚剤は役に立つのか』

幻覚剤は役に立つのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-10)作者:マイケル・ポーラン発売日: 2020/05/26メディア: 単行本LSDやマジックマッシュルームと聞くと僕などは「やばいドラッグ」ぐらいの認識しかないが、近年こうした幻覚剤が再度盛り上…

資本主義の中に取り込まれてしまった最後の竜を描く、最高の現代ファンタジィ──『最後の竜殺し』

最後の竜殺し (竹書房文庫)作者:フォード,ジャスパー発売日: 2020/05/28メディア: 文庫この『最後の竜殺し』は昨年、人口の99%以上が冬眠する極寒の世界をファンタジック&リリカルに描き出してみせた『雪降る夏空にきみと眠る』で(僕の)喝采をさらっていっ…

暴力が支配するカンフー・ハイスクールに公式記録で2400戦以上無敗のカラテNINJAがやってくる──『血まみれ鉄拳ハイスクール』

血まみれ鉄拳ハイスクール作者:ライアン・ギャティス発売日: 2020/05/28メディア: 単行本本書はライアン・ギャディスによる二作目の作品にして本邦初紹介作である。『血まみれ鉄拳ハイスクール』という書名からもわかる通りに(原題はKUNGFU HIGHSCHOOL)、血…

テクノスリラーの傑作『アンドロメダ病原体』の正統続篇にして、ド直球のSFとして拡張してみせた快作──『アンドロメダ病原体-変異-』

アンドロメダ病原体-変異- 上作者:マイクル クライトン,ダニエル H ウィルソン発売日: 2020/05/26メディア: Kindle版テクノスリラー&SFの傑作マイケル・クライトンの出世作『アンドロメダ病原体』の、別の著者による正統的な続篇がこの『アンドロメダ…

認知症患者にはどのように世界が見えているのか?──『今日のわたしは、だれ?』

今日のわたしは、だれ? (単行本)作者:ウェンディ・ミッチェル発売日: 2020/03/20メディア: 単行本(ソフトカバー)この『今日のわたしは、だれ?』は、2014年に58歳で若年性の認知症の診断を受けた女性が綴ったブログ記事を中心にまとめたエッセイ/体験記…

なぜ経済学者は信用されないのか?──『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』

絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか (日本経済新聞出版)作者:アビジット・V・バナジー,エステル・デュフロ発売日: 2020/04/17メディア: Kindle版2019年にノーベル経済学賞を受賞したバナジー・アビジット・Vとデュフロ・エステルによ…

第一次世界大戦において魔術やオカルトはどんな働きをしたのか──『スーパーナチュラル・ウォー』

スーパーナチュラル・ウォー 第一次世界大戦と驚異のオカルト・魔術・民間信仰作者:オーウェン・デイヴィス発売日: 2020/04/27メディア: 単行本(ソフトカバー)現代は魔術や予言には厳しい時代であるといえる。21世紀の今ノストラダムスの大予言のようなも…

サイエンスとファンタジィの融合を描くネビュラ賞、ローカス賞受賞のファンタジィ長篇──『空のあらゆる鳥を』

空のあらゆる鳥を (創元海外SF叢書)作者:チャーリー・ジェーン・アンダーズ発売日: 2020/05/09メディア: 単行本この『空のあらゆる鳥を』はアメリカの作家チャーリー・ジェーン・アンダーズによるファンタジィ小説で、ネビュラ賞長篇、ローカス賞ファンタジ…

民間経営の刑務所のあまりにもむごい実態が潜入調査によって明かされる!──『アメリカン・プリズン──潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』

アメリカン・プリズン (潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス)作者:シェーン・バウアー発売日: 2020/04/30メディア: 単行本アメリカでは一部の刑務所の運営が民間に委託されている。実に150万人の受刑者のうちおよそ13万人だ。刑務所を民間に委託なんかし…

アメリカ最古の辞書出版社における奮闘──『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』

ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険作者:コーリー・スタンパー発売日: 2020/04/13メディア: 単行本2019年に、ウェブスター辞書に男や女を二分法で区別しない代名詞の「they」を追加するというニュースが飛び込んできて、日本でも少し話題になった。僕…

第40回日本SF大賞を受賞した《天冥の標》が2巻まで無料公開されているから全力でオススメする。

SF

天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)作者:小川 一水発売日: 2013/01/25メディア: Kindle版2020年、第40回の日本SF大賞(日本のSF賞。小説以外の媒体も対象)を小川一水《天冥の標》と酉島伝法『宿借りの星』が受賞した(対象期間は2019年)。どちらも別の角…

「スゴ本」を読みたいのであればまずこれを読めと手渡せる、スゴ本の人のスゴ本──『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』

わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる作者:Dain発売日: 2020/04/30メディア: Kindle版スゴ本の人のスゴ本が出た。日本の書評ブログ最大手である「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の書き手Dainさんの初の著書である。D…

「いま・ここ」で起こっている経済の危機とその対策はなにか!? 緊急出版されたコロナ経済本──『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』

コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画 (文春e-book)作者:冨山 和彦発売日: 2020/04/30メディア: Kindle版『なぜローカル経済から日本は甦るのか 』や『AI経営で会社は甦る』といった著作、名だたる企業の社外取締役で名をはせている冨山和彦による、…

仕事をする必要がなくなった世界で、仕事とは何かを問う野崎まど最新SF──『タイタン』

SF

タイタン作者:野崎 まど発売日: 2020/04/22メディア: 単行本(ソフトカバー)今はGW真っ最中にコロナが重なって働いていない人もいるだろうが、我々の大半は働かなければ生き残れない。酸素を吸わないと生きていけないように、働かないと機能的に生き残れな…

人類にとって壁とはなんなのか──『壁の世界史-万里の長城からトランプの壁まで』

壁の世界史-万里の長城からトランプの壁まで (単行本)作者:イアン・ヴォルナー発売日: 2020/03/28メディア: 単行本「壁」は物語的にはそそる物体である。敵と味方をわける物であり、内部のものを閉じ込めるためのものであり、守るべきものであり、破壊される…